改正大麻取締法「使用罪」創設で浮かぶ新たな問題 「医療用大麻」解禁で難病治療には新たな光も
ただ、医療用大麻の解禁により、嗜好用大麻が解禁されたという誤解が広がる恐れもあることから、大麻を麻薬取締法で取り締まる「麻薬」に位置づけ、すでに禁じられている所持や譲渡に加えて、使用でも罰せられる「大麻使用罪」が創設された。
大麻を使用した場合、今後は7年以下の懲役となる。
2022年5月から今回の改正について議論してきた厚労省の有識者会議「大麻規制検討小委員会」の委員の1人で、神奈川県立精神医療センター依存症研究室(横浜市港南区)の小林桜児医師は、大麻使用罪の創設について「逮捕というかたちで薬物依存患者の社会生活がいったん止まる。それにデメリットを感じることで、その人が医療につながるきっかけになる」と、大麻使用の蔓延を阻止する手段として期待する。
小林医師によると、大麻の主な特徴はすぐに害(心身への害)が出にくいことで、禁断症状・離脱症状が早くに現れる覚醒剤と比べ、年単位、10年単位で出ることが多いという。
「10代から習慣的に吸っている人は、成人になってから精神疾患を発症しやすくなったり、知能指数(IQ)が低下したりする。逆に言うと、そうした症状が出るまでは、大麻の摂取は本人にとってよく眠れるとか、不安がなくなるとかのメリットがあるので、やめる理由がない」(小林医師)
だが、精神疾患を患ったり、IQが下がったりしてから、使用前の自分に戻りたいといっても手遅れだ。
実際、この9年間に同院の依存症外来を初診で訪れる人の使用薬物は、覚醒剤が380人なのに対し、大麻だけの場合は10分の1に過ぎないという。
「そもそも人が依存症になる理由は、好奇心ではなく、何らかの逆境体験を持ち、孤立し、人に頼ることを放棄していること」と小林医師は説明する。このため、メリットがデメリットを上回っている間は、その物質に頼って過ごしてしまう。
「何も不利益を経験せずに、自発的に依存症治療やリハビリ施設にやってくる大麻使用者はほとんどいません。使用罪で逮捕され、何らかの社会的な制約を体験することは、『こんなデメリットがあるなら、たとえ大麻で熟睡できたり不安が消えたりしたとしても、精神科で睡眠薬や安定剤をもらったほうがいい』と、人を頼る第一歩になりえます」(小林医師)
周囲に相談しやすい体制を
とはいえ、使用罪ができたからといって依存症患者がたちまち医療機関につながるわけでも、回復するわけでもない。必要なのは司法、医療、福祉の連携だと小林医師は言う。
国会で採択された付帯決議でも、大麻使用者が教育や治療、就労支援の各プログラムに参加する仕組みの導入や、周囲に相談しやすい体制の整備について、政府が検討することが盛り込まれた。
小林医師が望むのは、使用罪で逮捕されたら、薬物依存症専門の医師や心理士、弁護士らがその人のアセスメント(評価)を適切に行う体制だ。
例えば、恋人に勧められて断れず、たまたま一服吸ったら捕まったという人は、依存症の治療は必要ない。一方、心のバランスを取るために習慣的に吸っているという人は、生きづらさや逆境体験の評価をし、重症化する前に必要な医療や福祉につなぐことが求められる。
ただ、現状は受け皿の1つとなる薬物依存症専門の医師は不足し、社会復帰までの施設なども足りていない。
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