製薬マネーの問題点とは。

尾崎章彦(おざき・あきひこ)/乳腺外科医、医療ガバナンス研究所 研究員。東大医学部卒。東日本大震災後に福島県へ移住。いわき市を中心に診療と健康調査に従事し東京でも勤務(撮影:尾形文繁)
人の命を左右することもある医療情報。SNS上では私たちの不安につけこんだ、根拠に乏しい情報があふれている。本特集のタイトルは「不安につけこむ『医療情報』の罠」。何を信じ、何を疑えばいいのか。
筆者は2017年から一貫して、「製薬マネー」問題について医師の立場から取り組んできた。
多くの人の記憶にあるのは、14年の「ディオバン事件」だろう。高血圧治療薬(ディオバン)の臨床研究論文不正に関与した疑いで、製薬企業の元社員が逮捕された。だが、事件化するような事例はほんの一握りだ。
近年の研究により、医師が製薬企業から金銭や贈答品を受け取ることで、意識・無意識下に、診療の根拠となる研究や診療ガイドラインにバイアスがかかる可能性が指摘されている。特定の製薬企業が販売する医薬品を処方する傾向が高まる可能性もわかっている。
医学部や大学病院の取り組みは不十分
大前提として、医師と社会との間には、相互の“暗黙の契約”がある。医師はその専門知識を社会に公正に提供することで、社会から信頼と尊敬を得ることを目指さなければならない。
他方、社会は、その責任を十分に果たしている医師に対して報酬や社会的地位を与える。製薬マネー問題が世間を騒がせているようでは当然、社会の信頼を損ねる。
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