歯科業界を震撼させている「インプラント周囲炎」の恐るべき実態とは。
歯を失った人にとって、最後の切り札といえるインプラント治療が、いま大きな課題に直面している。埋めたインプラントの周囲の骨が溶ける感染症が静かに拡大しているのだ。最悪の場合は、高額な費用をかけたインプラントを失う場合もある。その最新事情と対策をお伝えしたい。
トラブル続出の本質
「楽にしてくださいね、これからインプラント手術を始めます」
患者に声をかけたのは、東京医科歯科大学病院口腔(こうくう)インプラント科の前教授・春日井昇平氏。現在は総合南東北病院(福島・郡山市)を中心にインプラント治療を行っている。
麻酔は口腔内のみ。患者の様子を観察しながら、春日井氏はメスで歯肉を切開して下顎の骨を露出させた。次は低速ドリルで骨を削って穴を開ける。
今回の患者は、骨の量が少ないため、直径5ミリメートルほどの骨補填材を用いた。そしてチタン製の人工歯根(インプラント)を顎の骨に埋め込み、歯肉を閉じる。
約30分で手術は終了した。この後、骨とインプラント体が結合するまで約3カ月待ってから、人工歯を装着する。
2007年にインプラント手術での死亡事故が起きた頃から、次々とインプラント治療をめぐるトラブルが表面化した。
「神経損傷によるマヒ、しびれ」「インプラントの脱落」「長期的な痛みや腫れ」など、深刻な後遺症が続出。原因の大半が、歯科医の経験不足や技術の未熟さによるものだった。
インプラント治療は自由診療で、1本当たりの治療費が30万円から50万円。収益性が高いため、治療に必要な知識と技術がない歯科医が、無理にインプラント治療を行ったといわれている。
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