人間には簡単でも生成AIには難しい意外なタスク 高度な知的作業が得意なAIに残された苦手分野

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また、社会的知能についても、人間のフィードバックを加えた強化学習などの調整を行えば、ある程度は実現可能であることがわかってきました。

それでも、依然として生成AIの影響をほとんど受けない職業もあります。

これを説明するために、もう1つのパラドックスをご紹介しましょう。

「モラベックのパラドックス」というものです。ロボット工学者のハンス・モラベックの名を冠したこの主張は、「AIにとっては、人間がよく考えて行う高度な作業は簡単だが、人間が特に何も考えず簡単にこなしていることは難しい」というものです。

生成AIでも代替できないことは?

たとえば、プログラミングコードを使ってシステム開発をしたり、高度なアルゴリズムを書いたりすることは、かなり頭を使う作業です。将棋や囲碁といったゲームをプレイしてプロを打ち破ることは、普通の人が頭を使ってどうにかなるレベルではありません。これらは人間のなかでも、一部の天才や高度なトレーニングを積んだ者にしかできません。しかし、すでに見てきたように、現在のAIはこれを簡単にできてしまいます。

では、服を畳む、食べものを箸でつまむ、散らかった部屋で移動する、ものを探して持ってくる、スキップする、といった作業はどうでしょうか。これはほとんどの人間が簡単にできることです。

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多くの人にとってプログラミングは難しい作業ですし、藤井聡太さんを将棋で倒せる人は、少なくともアマチュアでは一人も存在しないかもしれません。それに対して、箸を使ったりスキップしたりすることを難しいと感じる人は、まさかいないでしょう。人間であれば小学生か、下手すれば幼稚園児でもできることです。

しかし、AIにとってはこれが大変困難なことなのです。現時点では、これらの作業を実行できるAIは存在しないか、相当に限られた範囲のことしかできません。生成AIが登場したあともこの点は変わらず、「モラベックのパラドックス」はいまだに健在です。

「GPTs are GPTs」で示されていた生成AI登場後の「AIの影響を受けにくい職業」とは、まさにこのあたりの能力を必要とする作業、つまり肉体労働を中心にした職種です。皮肉なことに、人間にとっては一般的に賃金が低い傾向にあるこれらの職業は、AIで代替するのが最も難しい職業だったのです。

頭脳労働は生成AIなどを実装した機械に奪われてしまい、創造性を発揮する余地はなくなるのではないか? そんな悲観的な考えが頭をよぎります。

今井 翔太 AI研究者

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いまい しょうた / Shouta Imai

1994年、石川県金沢市生まれ。東京大学 大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻、松尾研究室に所属。博士(工学、東京大学)。人工知能分野における強化学習の研究、特にマルチエージェント強化学習の研究に従事。ChatGPT登場以降は、大規模言語モデル等の生成AIにおける強化学習の活用に興味。著書に『深層学習教科書 ディープラーニング G検定(ジェネラリスト)公式テキスト 第2版』(翔泳社)、『AI白書2022』(角川アスキー総合研究所)、訳書にR. Sutton著『強化学習(第2版)』(森北出版)など。

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