人間には簡単でも生成AIには難しい意外なタスク 高度な知的作業が得意なAIに残された苦手分野
ここまでは、ディープラーニング登場直後の2013年に発表された、オックスフォード大学のカール・フレイとマイケル・オズボーンによる世界的に有名な論文「雇用の未来」においても、AI/コンピュータによって代替できることとして前提にされていた部分です。
AIなら「非定型作業」でも代替できる?
ただし、この論文でも、AIには将来的にも難しいとされていた能力があります。論文内では「創造的知能」と「社会的知能」とされていた能力です。創造的知能とは、作曲や科学研究など、新しく価値あるアイディアを思いつく能力です。
社会的知能とは、交渉や説得のように、人間の感情を重視した対人コミュニケーションを行う能力です。これらの能力が扱う作業は、非定型作業であるうえに、そもそも何が正解であるかが明確ではありません。
ヒットする音楽の正解を誰が定義できるでしょうか? 感動させる詩のつくり方とは? どんな人も納得させる説得術とは? ノーベル賞を取れる研究のやり方とは? 受ける広告のコピーとは?
いずれも正解を用意することは不可能です。確かに、過去にヒットした曲や成功した研究、人の会話や文章のリストなど、正解データらしきものは集められます。これらを学習することで、過去に存在したものを模倣することはできるでしょう。
しかし、こうした作業で求められているものは、本質的に「今まで存在しなかった現象に対応する」ことや「これまでにない価値のあるものを生み出す」ことです。過去に存在したものをデータから学習して模倣するだけでは、あまり価値がありませんし、未知の事象に対応できないでしょう。
「ポランニーのパラドックス」は部分的には否定されたが、少なくとも短期的には機械化できない部分が残るだろう。そして、これらの能力を必要とする職業の大半は、高学歴で長いトレーニングを積んだ者が担う高賃金の職種である。これが2013年から生成AI革命前までの大多数の考えでした。
ところが、生成AIは、この考えをひっくり返してしまいました。OpenAI社らが2023年時点で問題にしているのは言語生成AIだけですが、言語を扱う職業だけで見ても、生成AIが創造的かつ社会的な能力を必要とする仕事を実行できることは明らかです。現在の生成AIも、2013年時点で登場していた機械学習・ディープラーニング技術の延長です。
では、その技術をもってしても「できないだろう」と思っていたことが、生成AIではなぜできてしまったのか。
まだ研究途上の部分も多くありますが、現時点である程度説得力のある説を述べるとすると、人間の創造的な作業とされてきたものの大半は、実は「過去の経験のなかから、価値のある新しい組み合わせを見つけること」であり、生成AIは膨大なデータ学習からこれを見つけられるようになった、というものです。
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