「しくじり議長」復権、米国株は2024年も上昇する FRBの利下げ幅は年間どれくらいになるのか

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早期の利下げ開始がインフレ減速に対応した政策金利の調整であれば、金融引き締めによる経済下振れリスクが低下する。であれば、株式市場などリスク資産にもプラスの影響を及ぼす。

一方、利下げへの政策転換が時期尚早なら、経済を過熱させインフレ期待を再び揺るがし、FRBが教訓とする1970年代のようなインフレ抑制失敗で高インフレが長引く。この場合、FRBの政策への信認が揺らぎ、経済が不安定化するので株式市場の下振れ要因になる。

FRBの「早期政策転換」で景気下振れリスクは低下した

上記2つのどちらのシナリオも想定されるが、今回の政策転換は、前者のシナリオになる可能性がより高いと考える。

2021年以降、コロナ禍からの正常化が進み経済が復調する中で、供給制約が重なったことでインフレが上振れた。その後、高インフレが和らぎ2023年には供給制約緩和も手伝い、インフレ減速が予想外に進んだ。そして、供給制約の緩和によるインフレ抑制は2024年も続く余地があるのではないか、と筆者は見ている。

コロナ禍による供給制約が重なったことで「異例の高インフレ」が起きた経緯を踏まえると、インフレが2%程度に近づく初期の兆候をうけたFRBの迅速な政策対応は、適切であるようにみえる。そして、これまでは2024年にアメリカ経済は景気後退に陥るリスクがあると指摘してきたが、実際に利下げがスムーズに始まれば、景気後退に至らずソフトランディングする可能性が高まった、と位置付けられる。

すでに、FOMC後に、債券市場では早期の大幅利下げへの観測が強まっており、2024年内に6回分の0.25%の利下げに相当する約1.5%程度の利下げが織り込まれている。

実際には、利下げ期待が強まることで、今後の経済成長を押し上げることが想定される。インフレの趨勢が2%台に十分低下すると判断される時期は2024年の半ばに訪れると見られ、2024年の年間利下げ幅は1%程度ではないか、と筆者は考えている。

目先の市場における、FRBによる利下げ期待はやや過大に見えるので、市場は春先まではFRBの政策対応への思惑で揺れ動く場面があるかもしれない。ただ、FRBによるインフレと経済の安定化が成功する可能性が高まる中で、2024年の米国株市場は、2023年に続いて上昇が期待できそうな確率が高まっている。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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