出口治明「お金を使うときのルールはひとつだけ」 貯める、殖やすより、使うほうがずっと大切だ

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つまり、不変の国民性なんてものはなくて、人はあくまで社会の状況を反映し、それに適応した行動をとっているだけなんです。いまの景気のなかでお金を楽しく使えることが、「賢さのバロメーター」です。

僕も、本書をとおして、できるだけいまの時代にあった「お金の基準」をお伝えしていきたいと思います。

出口流・楽しくお金を使うためのルール

まず、みなさんに強くお伝えしたいのは、お金は、人生を楽しくするための手段、ツールであるということ。つまり、お金そのものに価値があるのではなく、何かと交換したときに、はじめて価値が生まれるということです。交換しないまま、使わないままに置いておいても、価値は生まれません。

じゃあ、どうすればツールとして賢く楽しく使えるか。これに関して、僕が定めているルールがあります。

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それが、「オール・オア・ナッシング」の原則。100か0か。すべてか無か。いいものにはドンと大きく使い、そうでないものにはできるかぎり使わない、というルールです。

大学時代を、僕は京都で過ごしました。三重の田舎から京都に出てきた僕は、「京都にはおいしいものがたくさんある。せっかく京都にいるなら食べないと損だぞ」と思ったのです。

とはいえ、僕は家からの少しの仕送りに加えて奨学金を2つもらい、アルバイトをして生活しているごく普通の大学生。いまで言えばミシュランに掲載されるような有名なお店には、普通に考えたらとても通えません。ところが僕は、1カ月に1回は有名店に足を運び、「なるほど、こういう世界があるんだなあ」と感心しながらおいしい食事に舌鼓を打っていました。

それができたのも、「オール・オア・ナッシング」の考え方を持っていたからこそ。月に1回の贅沢のために、普段の食事はすべて生協の学食。しかも、最安に近いメニューで済ませていました。そうして日常生活のなかでの余計な出費はなるべく抑え、月に1回、1万円のディナーに行くというわけです。

3食とも学食で安いメニューで済ませる人と、ふつうの食堂でごはんを食べる人。この2人の食費を比べれば、1日300円〜500円の差が生まれるでしょう。すると、30日間で9000円〜1万5000円の差になる。その差額を手にして、31日目においしいものを食べよう。僕はそう考えたのです。毎日、ふつうのちょっとおいしいものを食べるよりも、メリハリをつけて1カ月に一度でいいから最高レベルのものを食べるほうが、僕は「楽しかった」ということです。

旅行も同じです。僕は若いころ、海外を旅するときはだいたい駅前にあるシャワー共同の安宿に泊まっていました。ただし、その旅のなかで1回だけは、その街のいちばんいいホテルに泊まってみる。これも僕なりの、オール・オア・ナッシングです。

もちろん、これが「若い人にとって正しいお金の使い方である」などと押しつけるつもりはまったくありません。「高級料理には興味がない」と考える人も、「汚い宿は絶対いやだ」という人も、当然いるでしょう。そう思うのであれば、そのポリシーに則ったお金の使い方をしてください。「正しい使い方」は人によって違うのです。

日々の消費を、なんの思考も思想もなく垂れ流さないこと。「自分が楽しくなる使い方のルール」を持ち、それに沿ってお金を使うこと。大切なのはこの2つです。

お金の使い方を考えることは、自分が何を楽しいと思い何を大切にし、どんな人間になりたいかを自問自答することなのです。

それが僕の場合、「オール・オア・ナッシング」だった、ということですね。

出口 治明 立命館アジア太平洋大学(APU)学長

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でぐち はるあき / Haruaki Deguchi

1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険相互会社入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2005年に同社を退職。2008年にライフネット生命を開業。2017年に代表取締役会長を退任後、2018年1月より現職。『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『人類5000年史Ⅰ』(ちくま新書)、『「全世界史」講義Ⅰ、Ⅱ』(新潮社)、『仕事に効く教養としての「世界史」Ⅰ、Ⅱ』(祥伝社)、『本の「使い方」1万冊を血肉にした方法』(角川oneテーマ)、『教養は児童書で学べ』(光文社新書)、『ゼロから学ぶ「日本史」講義Ⅰ』(文藝春秋)など著書多数。

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