「深刻な薬不足」に陥る薬局に考えられる解決策 全国の薬局が供給不足に陥った複雑な要因

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薬不足が後発薬メーカーの不祥事によって始まったことは確かですが、増産に対応できないほどメーカーの体力が乏しい理由についても注目してみましょう。国の方針と製薬業界の構造がこの事態を生んだと筆者は考えています。

厚生労働省が発表した「保険者別の後発医薬品の使用割合(令和5年3月診療分)」によると、日本では後発薬(ジェネリック医薬品)の使用割合が80.89%にまで達しています。この拡大には、医療費抑制を目的とした、政府による強い後押しがありました。

後発薬はすでに研究開発が終わった先発薬を後追いで作るため、医療用医薬品の価格である薬価は先発薬より低く設定されます。

政府は安価な後発薬を普及させるために、後発薬を一定割合以上処方する病院や薬局に対して診療報酬を加算するなどの措置を採ってきました。メーカーに対しても供給体制の拡充を求め、日本の後発品普及率は向上しました。

海外製薬会社の動向にも影響

問題は、後発薬の薬価が、毎年引き下げられる改定がされるところにあります。年々薬価が下がってしまうことで、後発薬メーカーの利幅は大きく減り、薬をいくら作っても儲からず、むしろ赤字が続く状況に追い込まれるわけです。

収益性が上がらなければ、生産能力も上がりません。高い品質を維持することも難しいでしょう。採算が見込めない薬の増産に後発薬メーカーが及び腰になるのもうなずけます。

そして日本の薬価の低さは、海外の大手製薬会社の動向にも影響を与えます。「日本は利益を期待できない、魅力が薄い市場」と判断され、新しい薬を投入する優先度が下げられ、薬不足につながっています。

もちろん、増大する医療費を抑制することも大切ですが、薬の安定供給を前提とした薬価制度の見直しも求められているのではないでしょうか。

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