「フランス人は10着しか服を持たない」で紹介されている貴族のマダムは、毎日買い物カートを引いて専門店を回り、上質な食材を手に入れる。実際は、八百屋、肉屋、チーズ屋、パン屋と回ると、1時間くらいかかってしまうことがある。それぞれの店で、接客の順番を待ち、「ボンジュール」とあいさつをかわし、商品を注文し、代金を支払い、袋詰めしてもらう。別れ際には、「良い一日を」などとまたあいさつし、店を出る。時間に追われている人にはとてもできない。
治安も日本ほどには良くない。スリが多いので、外出するときは地味な服装を心がけた。ハンドバッグは斜めがけ。地下鉄の構内にエレベーターやエスカレーターはほとんどないので、運動靴かヒールの低い靴を履く。おしゃれな服を手に入れても、披露するチャンスはあまりなかった。
地下鉄車内では、居眠りなどとんでもない。バッグに手をかけ、常にスリに対する警戒態勢をとる。駅名のアナウンスもほとんどないので、到着する駅の表示に目を光らせておかなくてはならない。ブランドのバッグを持ち、おしゃれな服を着て外出できるのは、運転手付きの車で移動できる人だけではないか、とやっかみたくもなる。
「手持ちの服が少ない」は本当だった!
ところで、本の題名になった「フランス人は10着しか服を持たない」は本当だろうか。フランス在住経験者らに尋ねると、「知り合いのフランス人女性は、いつも同じ服を着ていた。でも、一目で上質とわかるような服だった」とか、「学校の友達はみんな毎日同じズボンをはいていた」などの証言が集まった。
私の周囲にも、「いつも同じような格好をしている人」が多かった。2日連続同じ服を着ている人にも、たびたび出会った。日本と違い湿気が少ないので、夏でもあまり汗をかかない。したがって、そう頻繁に着替えたり、洗濯したりしなくても済むようなのだ。「10着」きっかりではないかもしれないが、総じてフランス人の方が日本人より少ない数の服を着回している。
さて、ここまでフランス生活の実際について紹介してきた。働く人がきちんと休みをとれるのは素晴らしいことだが、消費者の立場としては辛いこともある。働く人が働きやすいということは、消費者や顧客に多少の不便を強いることと表裏一体なのだ。
華の都パリには世界中の人々が集い、エッフェル塔やノートルダム寺院、凱旋門など美術品のような建築に、心が躍らされる。6月は梅雨もなく、新緑が美しい。からりと晴れた空の下、さわやかな風に吹かれて、カフェのテラスで過ごすのも楽しい。あまりお金をかけなくても、心が満たされる。フランスならではの喜びを味わうには、少々の不便は我慢すべき、ということなのだろう。
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