「勝ち組でいたい」に縛られる人が行き着く場所 その価値観は刷り込まれたものかもしれない…

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:「それは先進社会の人でしょう。」

:「と思うのが普通ですよね。しかし、彼がさまざまな未開な民族社会の親族関係・婚姻関係を調査したところ、一見無意味に思える未開社会の婚姻関係のしきたりのなかにも、実は高度な構造が関係していることがわかったのです。つまり、未開社会のほうが遅れているという風に一概にはいえないわけです。

KEYWORD 構造主義
構造主義とはレヴィ=ストロースの登場で、大きな思潮となった人文・社会科学の方法論・思想的運動のことをいう。レヴィ=ストロースはさまざまな神話のなかに、「昼・夜」「森・家」「同世代・各世代」「男・女」「能動性・受動性」「液体・気体」などの相関性があることに目をつけた。さらに、荒唐無稽に見える神話や婚姻関係に、高度な数学的ルールが働いていることを発見した。これによって、いわゆる「未開社会の迷信」とされていた思考が、実は高度な抽象的論理を駆使しているということがわかった。この発見は、西欧中心の進歩主義の批判につながった。ちなみにレヴィ=ストロースは、先住民たちの習俗や儀礼やさまざまな神話が、野蛮で未熟なものではなく、精密な論理的思考にもとづいていることを発見し、これを「野生の思考」と呼んだ。

:「そういうこともあるんですね。でもそれが勝ち組・負け組とどう関係するのでしょう。」

:「勝ちにこだわるべきという考え方もまた、永久に続くという保証はないということです。たとえばですが、あなたは、タワマンだと1階と高層階とどっちに住みたいですか。」

タワマンは「高層階」のほうがいい…は幻想?

:「それは……もちろん高層階ですね。」

:「なぜ高層階なんですか?」

:「景観がいいし、なんといっても、高いところのほうがステータスになるんですよ。実際、高層階のほうが価格も高いですしね。」

:「高層ビルの低層階のほうが下に降りやすいから、本当は便利ですよね。それでも上のほうがいいというのは、なにかの無意識的な思い込みなのかもしれません。価格も幻想かもしれませんよ。」

:「確かに低層階のほうが便利なところもあります。でも建物の高さに勝ち組のシンボルが象徴されているのではないですか?」

:「そう。あなたは、それを信じているわけです。しかし、レヴィ=ストロースによって『西欧社会のほうが未開社会より進んでいるはず』という従来の価値観が見直されたように、『高層階のほうが偉い』という価値観だって、いつ逆転するかわからないということです。」

:「だから、将来、社会が変化すると、勝ち組と思われていた人が負け組で、負け組と思われていた人が勝ち組になっていたという現象が起こるかもしれません。あんまりステータスにこだわっても、それは構造に影響を受けて、将来変化してしまうかもしれないということです。」

POINT 根本にある構造と表面的な変化
レヴィ=ストロースによれば、根底にあるルールは変わらずとも、表面的なものは変化するとされる。

:「なるほど……。なにが勝ちで負けなのかは、相対的なものなんですね……。確かに俺は、勝つことが絶対的に正しいと思っていたかもしれません。もう少し、考えてみます。」

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