「勝ち組でいたい」に縛られる人が行き着く場所 その価値観は刷り込まれたものかもしれない…

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ハイスペ男(以下、「ハ」):「人生はやっぱり勝ち負けがありますよ。俺は絶対に勝ち組に入ることに意味があると思います。仕事で大成功をして、資産を築いて、タワマンに住んで、高級車に乗って、モテモテで……そんな資本主義社会の勝者を目指します。」

構造主義者(以下、「構」):「それはもしかすると騙されているのかもしれません。あなたの考えているような勝ち組・負け組というものは、実は幻想かもしれませんよ。」

:「ええ? 勝ち組・負け組は本当にあると思いますよ。どこが幻想なんですか……?」

:「私たちは自分の自由意志で物事を決定し、行動していると思っていますが、実はそれは社会の仕組みによって規定されているだけなのです。『勝ち組に入らなければいけない』などの価値観も刷り込まれたものかもしれません。」

:「いやいや、勝つことに目標設定して頑張るというのは立派な態度だと思いますね。そうやって人間は進歩してきたんだから。現にこの資本主義社会には格差が存在しているじゃないですか。だから勝ち組と負け組はあるんですよ。」

:「では聞きますが、そもそも、年収いくらだと勝ち組なんでしょう。1000万円以上? 1億円以上? あるいはアメリカの成功者のような天文学的な金額ですか?」

:「それは自分で自由に決めればいいことです。人口のなかで上位何%とか基準を設ければいいでしょう。」

:「おそらく、あなたは勝ち組がどのようなものかを決定することはできないと思いますよ。ちょっと別の例で考えてみましょう。あなたは、お湯と水をどこで線引きしますか?」

:「さあ……40度くらいからお湯じゃないですかね。」

:「だったら、30度は水ですか? 30度はけっこうなまぬるいですけど、水というには温かいですよね。」

:「……まぁ、それはそうですが。じゃあ、30度もお湯なんじゃないですか?」

:「こういった分類において重要なことは、『Aは○○である』という定義そのものではなく、『AとB(ほかの物事)との関係性』なのです。つまり、『これがお湯だ』とは、実は明確にいえず、確かなのは『お湯は水よりも温度が高い』ということだけです。」

:「勝ち組・負け組も同じことです。いったいなにをもって『俺は勝ち組だ』といえるでしょうか。実は、社会の関係性(構造)からすると、そんなものは線引きができないのです。あなたは『タワマンに住んでいたら勝っている』という架空のフィクションのなかに生きているのかもしれません。」

先進社会の人と未開社会の人、どちらが進んでいる?

:「勝ち組・負け組の線引きが曖昧なのはわかりました。ただ、たとえ境界が曖昧だったとしても、負けたいと思う人は多くないでしょう。そういう意味で、勝ちにこだわることは大切だと思います。」

:「そうですね……。それについて説明するために、レヴィ=ストロースという文化人類学者の話をしましょう。彼は、未開社会のなかで未開人と一緒に生活していたフランスの文化人類学者・哲学者なのですが……。あなたは、先進社会の人々と未開社会の人々と、どちらが進んでいると思いますか?」

クロード・レヴィ=ストロース(1908~2009)
フランスの文化人類学者・哲学者。先住民の生活について研究した。主な著作は『悲しき熱帯』など。
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