ヴェルサイユ宮殿が「悪臭」に包まれた驚きの経緯 身近な「水」をとおして世界を見渡してみる

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この病気の原因については、当時は悪い空気を「ミアズマ」といいましたが、それを吸うことによって、病気が起こると考えられていたのです。

ミアズマというのは、ギリシア語で「不純物、汚染」といった意味を持っています。コレラは何度も大流行を起こし、多数の人々が死んでいきました。

スノウは、「コレラはミアズマで起こるのではない。水に含まれている何かが原因している」と見抜きました。

スノウが実践したのは、現代の「疫学」だった

彼は、ロンドンでコレラの流行が起きた際、水を供給する会社の違いによって、コレラの死亡率が異なることに気づきます。

取水口が下流にあり、そのため汚染された水を供給する会社の水を飲んでいる家庭では、コレラの死亡率が高かったのです。

ミアズマ説では、水を供給する会社が違うだけでコレラによる死亡率が異なることを説明できません。

スノウは1854年にロンドンのブロード街でコレラが流行したとき、死者が出た家を一軒一軒訪ねて歩き、どこの水を飲んだかを聞いて、それを地図上にプロットして分布図をつくりました。

そうすると、ほとんどの死者がブロード街の中央にある手押し井戸の近くの住民でした。また、この井戸から離れている家の人でコレラにかかったのは、井戸の近くの学校に通っている子どもであったり、井戸の近くのレストランやコーヒー店の客であったりと、その井戸の水を飲んでいた人たちであったことがわかりました。

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そこでスノウは、井戸の手押しポンプのハンドルを取り外し、その井戸を使用禁止にしました。こうして、コレラの流行は収まりました。

今の学問分野で疫学という分野がありますが、スノウはまさに疫学を実践し、その重要性を明らかにしたのです。

疫学というのは、集団を観察し、病気になる人とならない人、それぞれの人の生活環境や生活習慣などにおいて何が違うのかを調べ、原因を明らかにしていく学問です。

のちに、肥料の汚水溜めにコレラ患者の糞便が混入し、その汚水溜めと井戸が近かったことから、汚水溜めから井戸にコレラ菌が入り込んだということがわかりました。

コッホが「コレラ菌という細菌がコレラの原因である」という報告したのは、スノウが見抜いた何と約30年後のことでした。

左巻 健男 東京大学非常勤講師。元法政大学教授、『RikaTan(理科の探検)』誌編集長

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さまき たけお / Takeo Samaki

東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学教職課程センター教授などを経て現職。共著書に『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、
著書に『暮らしのなかのニセ科学』『学校に入り込むニセ科学』(平凡社新書)、『面白くて眠れなくなる人類進化』(PHP研究所)など。

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