《プロに聞く!人事労務Q&A》営業部長が部下を連れて退職しようとしています。部下だけでも引き留められないでしょうか?

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■競業他社への転職に関する判例

○ラクソン等事件 (東京地裁判決 平成3年2月25日)

企業間における従業員の引き抜き行為の是非問題は、その行為が直ちに雇用契約上の誠実義務に違反しているとは評価されない。しかし、企業の正当な利益を侵害しないよう配慮し、退職時期の考慮や事前の予告等はなされるべきであり、これらの配慮をしないばかりか、秘密裏に移籍計画をたて、一斉かつ大量の引き抜きをおこなうなど、その引き抜きが単なる転職の勧誘の域を超えて社会的相当性を逸脱し極めて背信的方法で行われたため、誠実義務に違反するものとされた。前営業本部長の引き抜き行為は、雇用契約上の不法行為に該当し、その行為によって会社が被った損害を賠償する義務を負うべきとした例

○三佳テック事件 (最高裁第一小法廷判決 平成22年3月25日)

元従業員の競業行為が、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で元雇用者の顧客を奪取したとみられるような場合には、その行為は元雇用者に対する不法行為にあたるというべきであるが、取引先の営業担当であったことにもとづく人的関係等を利用することを超えて、会社の営業秘密にかかる情報を利用したり、会社の信用をおとしめたりするなどの不当な方法で営業活動を行ったことは認められないこと、会社と取引先との自由な取引が競業行為よって阻害された事情はうかがわれないこと等の諸事情を総合すれば、競業行為は、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものとはいうことができず、会社に対する不法行為には当たらないとした例

■就業規則等に競業制限特約が必要

競業が制限されるのは、公表されていない秘密管理の技術、生産、販売方法等の事業活動に従事して知り得る立場にある労働者が対象となります。

それらの労働者に退職後も競業避止義務を負わせるには、就業規則に「退職後の競業避止義務に関する合理的な範囲内」での競業制限特約を規定する必要があります。

就業規則等に定めることにより、労働者側の態様が悪質、営業活動により不当に侵害された場合は、損害賠償請求や退職金不支給等が認められる可能性があります。

また、「競業避止誓約書」の提出は、競業制限対象者として入社したとき、または管理職に昇格して競業制限対象者になったとき等に提出を求めますが、提出を拒んだときは就業規則に根拠規定があることにより強制的に求めることができます。

(出典:日本経済団体連合会事務局編「労働経済判例速報」通算1438号、2073号)

白石多賀子(しらいし・たかこ)
東京都社会保険労務士会所属。1985年に雇用システム研究所を設立。企業の労務管理、人事制度設計のコンサルティングを行う一方で、社員・パートの雇用管理に関する講演も行っている。東京地方労働審議会臨時委員、仕事と生活の調和推進会議委員。著書に『パート・高齢者・非正社員の処遇のしくみ』(共著)。


(東洋経済HRオンライン編集部)

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