軍事力での中国抑制に警鐘を鳴らした米研究者 バイデン政権の足元で対中政策の変更を迫る

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対中安心供与について提言はこのほか、①米大統領、副大統領、国務長官、国防長官と上下両院議長の訪台禁止、②台湾総統、副総統のワシントン訪問禁止を挙げた。ただ、中国側が批判する、武器輸出や米艦船・航空機の台湾海峡通過には触れていない。

さらに提言は、台湾と中国に対しても「安心」供与を求めている。台湾に対しては、中国軍が台湾への攻撃を控える限り、①台湾は独立や恒久的な分離を追求しないと保証する、②正式名称である中華民国を変更するための住民投票実施をしない、③中華民国憲法が定める領有権の主張の修正など、独立を示すような挑発的な行動を控える、を挙げる。

さらに、④次期総統は、台湾政府は現状を根本的に変えるつもりはないという約束を再確認、⑤民進党の頼清徳氏が当選した場合、党綱領の中の独立条項を停止することを検討すべき、としている。

中国に求める安心供与の内容も注目に値する。提言は、習政権が繰り返し強調する「平和統一方針の信頼性を高める」ためとして、①中国は台湾周辺での軍事作戦を縮小する、②ペロシ下院議長の訪台後に常態化した台湾海峡の中間線越境行動を止め、以前の状況に戻す、③2005年に成立した「反国家分裂法」で武力行使の条件とした「平和統一がもはや不可能であると認識した場合」という「曖昧な規定の改定」を挙げた。

「武力行使の否定」を求める中国の学者

「台湾への武力行使の可能性を否定せず」を台湾政策の原則にする中国政府が、この提言を直ちに受け入れる可能性は低い。ただ中国の学者の中に、アメリカに台湾独立を支持しないことを誓約させたうえで、中国も「台湾へ武力行使しない」約束をすべきという注目すべき提言も出ているのは興味深い。

学者提言は公表されていないが、この学者は筆者に対し「武力行使を否定しない」政策は、国内世論向けの側面が強いとし、武力行使の否定によって、アメリカの台湾への武器供与を停止させうるし、台湾を東アジアの火薬庫にしないことに資するという中国側にとっての利点を挙げた。

学者は提言を中国共産党中央にも進言したと明かすとともに、「受け入れるかどうかは、指導部の知的レベルの問題だ」と述べた。3人のアメリカ研究者の提言が、米政策の変更につながるとことと併せて、中国側の動向も注視したい。

バイデン政権の足元から、台湾政策批判ののろしが上がった背景は何か。まず挙げたいのは、ウクライナ戦争に続いてイスラエル・ハマス戦争が火を噴いたことで、台湾海峡での衝突にも備えねばならない「3正面」には対応できないバイデン氏の苦境だ。

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