軍事力での中国抑制に警鐘を鳴らした米研究者 バイデン政権の足元で対中政策の変更を迫る

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新たな状況はアメリカ一極支配を支えてきた国際秩序の転換を加速し、中国や新興・途上国のグローバルサウス諸国による多極化秩序との妥協をアメリカに迫る。

根拠の薄い「台湾有事」をめぐる中国との争いは、対国内世論向けには有益だとしても、現実の戦争と比較してみれば成果の薄い消耗戦に過ぎない。次期大統領選とポスト・バイデンを意識した要因もあるだろう。

バイデン政権が3人の筆者の提言を受け入れ、対中安心供与路線に変更するかどうかは定かではない。ただ2023年11月のサンフランシスコの米中首脳会談以降、アメリカ側が台湾有事を煽る言動を控えているのは確かだ。

頭越しの「悪夢」恐れる岸田政権

一方、日本政府は菅義偉政権以来、バイデン政権とともに日米安保を「対中同盟」に変え、台湾有事に向けた日米統合戦略を推進してきた。

岸田政権は台湾有事を前提に、敵基地攻撃能力の保有と大軍拡路線を歩できた。まさに軍事抑止政策の「単線」のみを歩んできた。

一方で岸田氏は、2023年10月の国会での所信表明演説で「首脳レベルでも対話を進めてきている」と1年前には言及しなかった日中首脳交流再開に意欲を見せ、サンフランシスコのアジア太平洋経済協力会合(APEC)での2回目の対面会談にこぎつけた。

日本外務省は、11月29日100歳で死去したキッシンジャー氏による歴史的な米中和解が、日本の頭越しで行われたことを忘れていない。同氏は対中交渉で周恩来氏に「中国には普遍的な視点があるが、日本の視点は偏狭」と述べたとされる。

朝鮮半島情勢ととともに日本の安全保障政策の中心をなす台湾政策で、アメリカが日本の「頭越し」に政策転換するのは「悪夢」でしかない。日本政府は早急に政策転換の準備に取り掛かるべきだ。

岡田 充 ジャーナリスト

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おかだ たかし / Takashi Okada

1972年共同通信社に入社。香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員を経て、2008年から22年まで共同通信客員論説委員。著書に「中国と台湾対立と共存の両岸関係」「米中新冷戦の落とし穴」など。「岡田充の海峡両岸論」を連載中。

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