シュンペーターは一体何を間違えてしまったのか 新しい「経済社会の"変遷"理論」を提示する

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必需品である衣食住や移動手段と異なり、レジャーは何でもいい。時間がつぶせて楽しければ、それでいいのである。だから、供給側はさまざまな分野から参入が可能であった。

ラジオ、テレビのような技術革新の賜物のようなものもあれば、ウォークマンのようにアイデア勝負のものもあった。スマートフォンも、要は暇つぶしの道具である。メールもネットサーフもSNSも動画も、すべて暇つぶしの娯楽品である。

暇つぶしに金を払わせるために、供給側はアイデアを絞り、お互いに余暇時間の奪い合いをしている(そして睡眠という必需品が奪われる)。供給側は大混乱の中での激しい競争となる。そして、消費者側はすぐに飽きて、次の暇つぶし手段に移っていく。流行があり、群集消費者は雪崩を打って移動する。供給側はこれに翻弄され続ける。

供給側も逆襲、「麻薬的サービス」で再度消費者を支配

しかし、こうなったのは供給側の責任なのだ。必需品の改善、改良、画期的な新型モデル、別の製品といえる代替手段を誠実に積み上げて作るよりも、新しいレジャー品、エンタメ品を安直なアイデアで生み出し、消費者を奪い取るほうが手っ取り早いし、何よりも利益率が高くて儲かる。なぜなら、妥当な価格が消費者にはわからないから、欲望を刺激して、いくらにでも価格設定できたからである。

この過激化したエンタメ品の競争は、少しでも消費者をすばやく激しく刺激したほうが勝つようになる。既存のエンタメ品におぼれている、ただし飽き始めている、そのような消費者を奪い取るには、刺激を強めるのが手っ取り早いからだ。

こうして、エンタメ品は刺激が強くなりすぎる。すると、飽きられるのも早くなる。さらに供給側は刺激を強くする。こうして、ついにはライバルへ乗り移ることができないような中毒性を持った麻薬的な製品、サービスばかりに変わっていく。消費者を中毒化する麻薬的サービスの供給合戦になるのである。

消費者の変化が加速化し、嗜好は移ろい、あっという間に流行は変わり、供給側は翻弄されるようになったわけだが、これは供給側が安直に消費者を支配しようとして刺激を強めすぎたために、それに慣れすぎて、消費者は飽きっぽくなったために、消費者に翻弄され、逆に支配されるようになったのである。そこで、逆襲として麻薬化し、消費者を再度支配しようとするのである。

これが、供給側(生産側)と需要側(消費側)の相互のダイナミズム、近代資本主義社会における経済構造の変遷である。

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