「国際軍事見本市」が、日本の国防力を高める 日本での初開催イベントの意義は大きい

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実は、自衛隊の幹部で海外の専門誌を購読するなど積極的に海外の情報を得ようする人物は極めて少数派である。多くの幹部は自分の担当する装備には精通しているが、他の兵科は勿論、諸外国のものには無関心である。英語が読めない幹部が多いことが外国の雑誌を読まない理由のひとつだが、日本語の月刊「軍事研究」さえも読んでいない者が多いことには驚く。実のところ国内「専門誌」は海外の常識ではマニア誌にすぎない。それすら読んでいない。自腹を切って海外の専門誌を読む幹部は、「軍事オタク」呼ばわりされて、あまり出世しない傾向にあるようだ。

そもそも防衛省、自衛隊は、組織としても情報に関する意識が低く、対外情報の収集に不熱心だ。昨今やっと防衛駐在官を増やすなどの方策が始まったばかりだ。このため一般に自衛隊の幹部は諸外国の「同業他社」の動向や、先進技術に関しての知識や素養があまり高くない。

知識が決定的に不足している

一例を挙げておこう。あるDDH(ヘリコプター護衛艦)の艤装委員の火器担当者は、すでに多くの海軍の水上戦闘艦で使用されているRWS(リモート・ウェポン・ステーション)を、存在さえも知らなかった。これなどは「軍事研究」や「世界の艦船」を読んでいれば知っていて当然の知識だ。技本の開発担当者や各幕の調達担当者、現場の部隊の運用者も、知識不足が顕著である。技本では現物を調査せずに、ネットの写真を元に研究開発を行うこともある。

例えば装甲の内張りであるスポールライナーは、写真を元にして研究開発がなされたことを、筆者は担当者に直接確認している。彼らの言い訳は「情報が無い」「外国企業はサンプルを出さない」というものだが、海外の見本市では現物が多く展示されており、筆者ですらサンプルを貰える。ダイニーマ-やデュポンなどの海外メーカーの日本法人に問い合わせれば情報もサンプルも入手できるだろう。こうした交渉さえもやらないから外国メーカーが首をかしげるような成果物ができあがる。

6年程前には、このようなこともあった。陸幕で装備調達を司る装備部では、筆者の著書「防衛破綻」(中公新書)の「正誤表」なるものを作成した。筆者はこれの一部を入手したが筆者の「誤」を正したとする「正解」が実は間違いだらけだった。これに対して抗議したら54カ所の「誤り」が3カ所に激減、内2カ所は単に防衛省と国交省の見解の相違であった。

筆者が得た部分を見る限り、担当者はウィキペディアあるいはアマチュアのブログ、へたをすると2ちゃんねるあたりを参照していたようだ。言うまでもないが、ウィキペディアは信頼性が低く大学のレポートなどでも引用が認められていない。筆者が海外の航空ショーを取材し、米空軍やメーカーの担当者に直接確認した話をウィキペディアの内容を盾にして否定されてしまうようでは、たまったものではない。

この話は小野寺元防衛大臣にも質したが、担当者や上司が処分されたという話も聞かないので、未だにお粗末なソースを利用した内部レポートがまかり通っているのではないだろうか。それらが内部資料や政治家向けの「ご説明」に使用されている可能性があるのだ。

筆者はこの「正誤表」の全文の公開を要求したが小野寺大臣は内部文書であることを理由に開示を拒否した。ウィキペディアを参照にした程度の書類がなぜ公開できないのか極めて不思議だ。この話は防衛省、自衛隊の過度な情報隠蔽体質の顕著な例である。ミスをしても誤った情報を流しても外部にもれなければ恥をかかないし、批判もされない。情報に対する緊張感はなくなる。これが防衛省・自衛隊が情報に鈍感になっている一因だ。

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