池上彰が考える「中学受験の成功」より大切なもの これからの時代を「生きる力」を手に入れる
親が中学受験を勧めるのは、突き詰めればわが子に幸せな人生を送ってほしいからでしょう。
否応なく多くの知識を蓄えることになる受験勉強は、確かにその一助になるかもしれません。しかし、中学受験をする・しないにかかわらず、意識しなければ身につきにくいものがあります。それが「教養」です。
教養とは単に知識があることではなく、知識を生かしてよりよい行動が取れるということです。ものごとを深く理解しようとする気持ち、自分なりの考えを持とうとする姿勢がなければ、教養は身につきません。
どんなに知識があっても、正論で思いやりなく相手を論破する人に教養があるとは言えないのです。
「正しさ」を伝えて納得してもらうためには、知識だけでなく、相手の意見を受け入れる度量の広さや適切な言葉選びなど、さまざまな能力が必要です。知識の運用力とも言えるこの力こそが、教養です。
わかりやすい言葉を疑ってみるのが教養
アメリカのトランプ前大統領は、それまでの政治家とは全く違う言動で、あまり政治に関心のなかった人たちを惹きつけました。
彼の言葉はとてもわかりやすい。「アメリカが一番だ」というワンフレーズで、世の中の問題がすべて解決するようなイメージを打ち出しました。
でも実際はそううまくはいきません。国内の問題も諸外国との関係も、「アメリカが一番」だけでは解決できないことがたくさんあります。
人は、わかりやすい言葉につい飛びつきたくなります。しかしそこで「ちょっと待てよ」と立ち止まって考えられること、注意深く冷静に対応できること。教養とはそういうものだと思います。
戦争、貧困、気候変動、ジェンダー問題、AIをどう使いこなしていくかなど、解決が難しいテーマがたくさんある時代です。そういう世の中にこれから巣立っていく子どもたちに教養を求める傾向は、実は中学受験にも現れています。
近年は、公立の中高一貫校が増えています。私立に比べると経済的な負担が少ないこともあり、たいへん人気があります。
東京にも都立高校の附属中学がいくつかありますが、受験問題を見ると単純に知識の量を問うことはしていません。
中学は義務教育なので「学力試験」をしてはいけないことになっているからですが、統計データから読み取れる結論を記述させるなど、知識を応用して全体を俯瞰する、分析する、自分の考えを述べるといった能力をはかっています。
こうした傾向は公立の中高一貫校だけでなく、一部の私立中学にも見られます。特に老舗と言われるような私立中学では、知識の量を問うだけではない非常によく練られた問題が出されています。
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