31歳から修行、44歳でラーメン店出した男の半生 オープンは「震えるほど怖かった」開店も3カ月延期

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筆者が「船越」のラーメンをはじめて食べたのが今年3月。

一口食べた時点で確実に「TRYラーメン新人大賞」を受賞する一杯であると確信するほど衝撃的な味わいだった。

今までまったく食べたこともないラーメンであるにもかかわらず、そこにははっきりとした“懐かしさ”が共存していたのだ。

「全国のご当地ラーメンの食べ歩きの結晶」

「ギミックとしては、コショウや親鶏の丸鶏のダシの風味、豚の旨味のアタック感など“懐かしさ”につながるような仕掛けはもちろんありますが、それだけではありません。このラーメンは、私の全国のご当地ラーメンの食べ歩きの結晶なんです」(船越さん)

船越さんは樹庵さんと廻った全国のご当地ラーメンの遠征の中で、各地の横綱店がなぜ横綱になりえるのかを研究してきた。

このラーメンの中には、その一つ一つの技術が詰まっているのだ。

昔ながらの塩漬けメンマをひき肉と一緒に炊く製法、ネギを青い部分も含めて大きめにざっくりと切る旭川ラーメンのようなアプローチ、盛り付けを綺麗にしすぎずスープもどんぶりになみなみ入れるなど、全国のご当地ラーメンの繁盛店を巡って培った「圧倒的に見るからに旨そうなラーメン」の技術を応用したのである。

「ラーメンの絵面も含めてご当地の知恵を注ぎ込んでいます。ラーメンらしさにこだわり、見た目からして『あー、いいよね』と言わせるものを目指しました。これこそが私の狙う『普遍的』なラーメンイズムなんです」(船越さん)

パッと見では船越さんのラーメンは「新しい」とは言われないかもしれない。見た目の綺麗なオシャレなラーメンが一般的には新しいと言われるだろう。しかし、船越さんは「新しい」の捉え方を変えたいと話す。

「見た目も綺麗で味のレベルも高いラーメンが世の中にあふれていて、逆にうちのような見た目のラーメンが新鮮に映るのかもしれません。うちのラーメンが大賞になるということは、この一杯に逆に新しさを感じていただけたのではないかなと思います。

決して新しくは見えないかもしれませんが、他と別のことをやろうと思って作った一杯です。そこに違う意味での新しさを感じてくれたならありがたいなと思います」(船越さん)

(筆者撮影)

船越さんは敬愛する「春木屋」「永福町大勝軒」「丸長」などのように、長く愛される普遍性の塊のような店を目指してまだまだラーメン作りに邁進していく。

「うちはスペシャルティなコーヒーではなく、旨いコーヒー牛乳を作っているようなイメージでラーメンを仕上げています。ラーメンの大衆性を大事にし、肩肘はらずに食べられるものでありたいと考えているからです」(船越さん)

ラーメンが世界から注目され次のステージにいこうとしている中で、ラーメンの本来の良さに注目する船越さん。これから「船越」のラーメンがどうなっていくか期待である。

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井手隊長 ラーメンライター/ミュージシャン

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いでたいちょう / Idetaicho

全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」「AERAdot.」等の連載のほか、コンテスト審査員、番組・イベントMCなどで活躍中。近年はラーメンの「1000円の壁」問題や「町中華の衰退事情」、「個人店の事業承継」など、ラーメン業界をめぐる現状を精力的に取材。テレビ・ネット番組への出演は「羽鳥慎一モーニングショー」「ABEMA的ニュースショー」「熱狂マニアさん!」「5時に夢中!」など多数。その他、ミュージシャンとして、サザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」や、昭和歌謡・オールディーズユニット「フカイデカフェ」でも活動。著書に「できる人だけが知っている 『ここだけの話』を聞く技術」(秀和システム)がある。

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