台湾・李登輝元総統の「対日工作」を担った大物 現在の日米台間の協力体制の基礎をつくった男
彭は漢民族集団の1つである「客家」だ。李登輝、鄧小平も「客家」だった。「複眼思考」の持ち主が多く、学者、政治家に多い。
彭は自分の出自について多くは語らなかった。しかし、興が乗ると多弁になる。こちらが問わないのに「最近台湾を初訪問したリベラル評論家は、愛人を連れてきた」などと、思わず真偽をただしたくなる裏話も明かした。
本業の「台湾運輸機械公司」は、アメリカのジェネラル・エレクトリックス(GE)や日立など重電機メーカーと協力関係にあり、「政商」と言ってもいいビジネスマンだった。同社は、建設が凍結中の台湾第4原子力発電所の原子炉の輸送を請け負い、日本の新幹線車両を導入した台湾新幹線事業にも絡んだことがある。
そんな彭がいつもの鷹揚な様子とは一転、パニくった様子をさらけ出したことがあった。「明徳小組」をスクープされた直後の2002年4月、彼が来日し定宿の帝国ホテルで会った。
いつもは本館2階の薄暗いバーで会うのに、この時は1階のレストランを所望し、出口が見渡せる奥の4人掛けテーブルに陣取った。
座るなり彼は周囲を見回しキョロキョロする。対日諜報工作の暴露で、日本の司直の手が回らないかと警戒したのだと思う。この時初めて見せた狼狽ぶりは今も鮮明に思い出す。
関係筋によると、彭は2023年7月新型コロナに感染し入院、その後連絡が途絶えたことから、台湾の病院で死去した可能性が高い。葬儀は家族だけで行ったという。
日米台の安保協力基礎作った
最後に彼の対日工作の成果を、別の角度から眺める。日本の各種世論調査では日本人の台湾好感度は75.9%に上るが、対中好感度は17・5%と対照的だ。台湾への高い好感度の理由は対中嫌悪の裏返しの要素が強い。
メディアは、2011年の東日本大震災で台湾から200億円の義援金が寄せられたこと。蔡英文政権が2019年、アジアで初めて同性婚を認める法律を施行し、コロナ禍ではオードリー・タン(唐鳳)デジタル発展相が果たした役割をみて、「台湾の民主化」というソフトパワーが好感度につながったとする報道が目立つ。
一方で、もう少し長い射程でみれば、明徳小組のダーティな諜報工作こそ、「台湾有事」シナリオに基づき、日米台3者の安保協力強化が進む政治状況の基礎を作ったと思う。
1972年の日台断交以来、「受け身」に徹してきた日本政府の台湾姿勢を「主体的関与」へ転換させ、防衛省の平服職員を「日台交流協会台北事務所」に常駐させるまでになった日台関係の現状をみれば彭も本望だろう。
これまで紹介したように、「民主化の父」という李登輝のクリーンイメージは、彭のダーティな諜報工作抜きには成立しなかったのは確かだ。
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