台湾・李登輝元総統の「対日工作」を担った大物 現在の日米台間の協力体制の基礎をつくった男

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活動の背景には、1995年の李登輝訪米から96年の総統選まで、中国軍が台湾周辺でミサイル演習を行い台湾海峡の緊張が高まったことにある。小組の秘密資金は35億台湾元(約1638億円)にも上る。

彭が担う日本各界の包摂の対象は、政界、官界にとどまらない。現代台湾研究でよく知られる元東京大学教授や、全国紙幹部などリベラル系を含む学界、言論界にも及ぶ。

150万円相当のお歳暮

壱週刊は「篭絡の手法」もあけすけに暴いている。李登輝は1999年12月、総統最後の歳暮を贈るため彭を日本に派遣。「お歳暮」代わりの商品券について「1人2000ドル(約30万円)。橋本元首相は1万ドル(約150万円)」だった、と暴露した。

元防衛事務次官の秋山昌広氏に関する記述は詳細だ。壱週刊は「台湾側が秋山氏の「日米安保、日台関係への貢献に感謝」し、「学位と経歴を取得することで将来『学者、専門家』の身分でふたたび協力」するため、「2年間の甘え理科・ハーバード大学留学の手配をし、その費用として10万ドル(1500万円)を援助した」とばらす。

秋山氏は実際1999年から2年間研究員としてハーバード大学に在籍した後、2004年には立教大学教授に就任した。資金援助について、メディア取材にノーコメントで通したが否定もしなかった。

一介のビジネスマンの彭が、なぜ政官界中枢に近づけたのか。彼の対日工作パイプは、日本外務省から台湾大学に留学し、大学で彭と知り合った後、駐中国大使を務めた大物外交官だった。

一方、アメリカ側のパイプはカート・キャンベル国務副長官、アーミテージ元国務副長官、ウルフォウィッツ元国防副長官ら、アメリカの歴代政権で対日政策を左右する「ジャパンハンドラー」の面々である。これは彭自身が、何度も筆者に語っている事実でもある。

では彼の工作はどんな成果を挙げたのか。

いくつか挙げると①1995年11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合に、台湾は李登輝出席を強力に働きかけた、②湯曜明・元国防部長が2002年3月、国防部長の肩書で初訪米に成功した、③李の心臓病治療を目的にした2001年4月の初訪日を日本メディアと世論の支持をバックに実現し、その後8回の訪日の突破口にした、が挙げられる。

李登輝は対日工作と併行して、対大陸工作も同時に進める周到さを見せた。「明徳小組」の活動とほぼ同時期に、配下の曾永賢・元資政(総統最高顧問)を通じ、密使を北京に送り情報交換させている。

こちらのほうは「カネ」が物言わぬ世界だから、相互の安全保障のために情報交換が中心だった。

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