しかし、貿易収支が赤字である場合には、円安になると赤字は拡大するのである。赤字を減らすには円高が必要だ。外国と取引を行う個々の企業の立場からしても、ドルベースの支払いがドルベースの受け取りより多くなれば、円安になるほど利益が減少する。ドルベースの受け取りが多い企業の場合であっても、円安によって発電用燃料の価格が上昇して電気代が上昇することを考慮に入れれば、「円安ほど利益が増える」とはいえなくなる。
このように状況が大きく変わったにもかかわらず、株式市場もエコノミストも、「円安なら株高」という条件反射的判断から脱却できていない。そうした考えに基づいて円安政策が取られれば、事態は悪化する。
したがって、金融を緩和してはならないのだが、これまでの考えから脱却できないため、そうした政策が継続される可能性が高い。だから、為替レートや金融緩和に関する考えを変えることが大変重要だ。
TPP(環太平洋経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)についてもそうだ。これらは貿易自由化策と誤解されることが多いのだが、実は「貿易ブロック化策」である。それらが必要と考えられたのは、アジア諸国などで日本企業の現地生産が行われる場合、日本から部品を輸入する際の関税を引き下げる必要があったからだ。しかし、部品の生産も海外で行われるようになれば、そうした措置は必要なくなる。そこで生産された製品を日本に輸入する際の関税は、日本が引き下げればよいだけのことだ。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2011年6月11日号)
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