苦境のレゴを復活させた「経営者の直観」その中身 「すばやい対応」だけでは現状打破には不十分

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プリンストンの学生の大半(86パーセント)と、中立的な立場の観察者のほとんどは、「ラフプレーを始めたのはダートマスの選手が先だ」と回答した。だが、「ラフプレーを始めたのは自分たちのほうだ」と認めたダートマスの学生は36パーセントにすぎなかったのである。

また、試合の映像を見ながらルール違反を数えてもらったところ、ダートマスの学生は自分たちのチームが犯したルール違反を半分程度しか指摘できなかった。

つまり、学生たちは違うものを見たと「主張して」いただけではなく、実際に対抗相手の学生とは異なって「見えていた」 のである。どちらの大学に忠誠心をもっているかによって、目にするものが変わっていたのだ。

私たちは「信念にあうこと」だけを正確に認識する

この研究は、より広い事実を裏づけるものとしてよくあげられる。

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私たちはだれも、ある出来事を公平に観察することはできない。私たちが「見る」ものは、好みや偏見に強く影響を受ける。自分が気づくものにも偏りが生じ、信念にあうことだけを正確に認識するのだ。

だから私たちは、親しい人の不正行為よりも、赤の他人の不正行為に気づきやすい。そうなれば、間違った判断や思い込みをしやすくなる。信念や忠誠心が強いほど、私たちは心を閉ざし、周囲で起こっていることの解釈を柔軟に変えられなくなるからだ。

すばやく柔軟に切り替えれば、スポーツ、ビジネス、日常生活などにおいて、状況にうまく対処できるようになる。このような対応力は複数の要素で構成されており、1つの考え方からべつの考え方に切り替えるメンタル・プロセスも含まれる。

エレーヌ・フォックス 認知心理学者、神経科学者

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Elaine Fox

ダブリン大学、ヴィクトリア大学ウェリントン校などを経て、エセックス大学で欧州最大の心理学・脳科学センターを主催。その後、オックスフォード大学の感情神経科学センターを設立・指揮したほか、イギリス政府のメンバーとしてメンタルヘルス研究における国家戦略も担当した。現在はオーストラリアのアデレード大学で心理学部長を務め、認知心理学と神経科学、遺伝子学を組み合わせた先進的な研究を行う。またコンサルタント会社〈オックスフォード・エリート・パフォーマンス〉を経営し、トップアスリートやビジネスパーソンなどのメンタル・トレーニングの指導にもあたっている。著書に『脳科学は人格を変えられるか?』(文藝春秋)。

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