イスラエルの歴史学者が語る「ハマス紛争の勝者」 この戦争に勝つのは政治的な目的を果たした側

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この1年間、イスラエルの政治に深くかかわってきた私には気がかりなのだが、現在のネタニヤフ政権の少なくとも一部もまた、聖書に根差す幻想と絶対的な正義に固執しており、平和的な妥協にはほとんど関心がないようだ。

当事者全員が、ハマスの解き放った洪水を食い止め、イスラエルとパレスティナ人が溺れるのを防ぎ、さらに広い範囲が荒廃する事態を回避しなければならない。理論上は、核戦争がわずか24時間後にも起こりうることを忘れないでほしい。もしイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラやその他のイランの仲間が、脅し文句のとおりにイスラエルにミサイルの雨を降らせたら、イスラエルは自衛のために核兵器の使用に踏み切りかねない。したがって、どの陣営も、聖書に根差す幻想や、絶対的な正義の実現の要求を捨て、目の前の紛争の鎮静化と、和平や和解のための下地作りに向けた、具体的な手順に的を絞るべきだ。

今必要なのはこれ以上の争いの激化を防ぐこと

過去2週間の出来事の後では、和解はまったく不可能に見える。私自身の親族や友人たちも、ホロコースト〔訳注:ナチスによるユダヤ人大虐殺〕を思い出させるような場面を経験したばかりだ。だが、ホロコーストから80年後の今、ドイツ人とイスラエル人は良き友となっている。ユダヤ人はホロコーストに関して、絶対的な正義を得ることはけっしてなかった。そんなことが、どうして可能だろう? 苦痛の悲鳴を犠牲者の喉の奥に押し返し、煙をアウシュヴィッツの煙突の中に吸い戻させ、遺体焼却炉から死者を蘇らせることができる人など、いるだろうか?

私は歴史学者なので知っているが、困ったことに歴史は過去を変えたいという思いを掻(か)き立てる。だが、それはしょせんかなわぬ夢だ。過去は救いようがない。未来に焦点を合わせよう。古傷は癒やし、新たな傷害の原因にさせてはならない。

1948年に、何十万ものパレスティナ人がパレスティナの自宅を失った。その報復として、1940年代末から1950年代初めにかけて、何十万ものユダヤ人がイラクやイエメンやその他のイスラム教国から追い出された。それ以降、不当な仕打ちがさらなる不当な仕打ちを呼び、暴力の悪循環を起こしていっそうの暴力につながってきた。だがこの悪循環は、永遠に繰り返さざるをえないわけではない。もちろん、目下の恐ろしい戦争のさなかに、この悪循環にきっぱりと終止符を打つことは望めない。今必要なのは、これ以上の争いの激化を防ぐことであり、そのためには、何らかの具体的な行動を起こして希望を示すことが求められる。

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