パレスティナ解放機構のような非宗教的な組織の目的とは違い、ハマスの究極の目的は現世のものではない。ハマスにとって、イスラエルに殺されたパレスティナ人は殉教者であり、彼らは天国で永遠の至福を享受する。殺されれば殺されるほど、殉教者が増えるわけだ。
この世に関しては、ハマスその他のイスラム教原理主義組織の見方によると、地上の人間社会にとって達成する意義のある唯一の目的は、清純と正義という天の基準を無条件に遵守することとなる。和平はつねに、人々が正義と考えることを巡る妥協を伴うので、拒絶しなくてはならず、いかなる犠牲も厭(いと)わずに絶対的な正義を追い求めなければならないということだ。
ちなみに、ハーヴァード大学の学生組織など、多くの西洋民主主義国の急進左派に見られる昨今の奇妙な現象も、これで説明できる。彼らは、キブツ・ベエリやキブツ・クファル・アザなどのイスラエルの共同体で行なわれた残虐行為や、ガザ地区での人道危機の責任を、ハマスにはいっさい負わせない。そして、万事イスラエルのせいにする。
絶対的な正義を求めれば必ず果てしない戦争を招く
急進左派とハマスのような原理主義組織との共通点は、絶対的な正義を信じることだ。それが、この世の現実の複雑さを認めることの拒絶につながる。正義は高邁(こうまい)な理想だが、絶対的な正義を求めれば必ず、果てしない戦争を招く。世界史上、妥協を必要としない平和条約や絶対的な正義を提供する平和条約が締結されたことはかつてない。
もし現にハマスの戦争の狙いが、イスラエルとサウジアラビアの平和条約締結を頓挫させ、国交正常化と和平の可能性をすべて台無しにすることにあるとすれば、彼らはこの戦争でKO勝ちを収めようとしている。そして、イスラエルはハマスを手助けしている。それはおもに、ネタニヤフ政権が、自らの明確な政治目的を持たずにこの戦争を行なっているように見えるからだ。
イスラエルは、ハマスを武装解除したいと言っており、自国民を守るためにそうするのは当然のことだ。ハマスの武装解除は将来の和平の機会にとっても欠かせない。ハマスは武装しているかぎり、和平の試みを失敗させ続けるだろうから。だが、たとえイスラエルがハマスの武装解除に成功しても、それは軍事上の成果にすぎず、政治上の策ではない。短期的には、イスラエルはサウジアラビアとの和平交渉を破綻から救い出すための策を持っているのだろうか? 長期的には、パレスティナ人との包括的な和平に至り、アラブ世界との関係を正常化する計画が、イスラエルにあるのだろうか?
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