なるか、ならないか原因の3分の1は運--『がんの練習帳』を書いた中川恵一氏(東京大学医学部附属病院放射線科准教授)に聞く

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──そもそもがんにならない方法はないのですか。

がん細胞は、元来は細胞コピーの失敗に由来する。だから、がん発病の原因は3分の1が運といえる。残りの原因の3分の1は喫煙で、あとの3分の1がたばこ以外の生活習慣。具体的には酒を飲んで赤くなったら飲まない、肉を控えて野菜を多く取り、塩分を控える。また女性は赤ちゃんを母乳で育てたほうが乳がん発症は少ない。

日本人が白人や黒人より注意すべきなのは、赤くなったら酒を控えることだ。白人や黒人はアルコール分解酵素の欠損がなく鯨飲できる。だが、欠損のある日本人では、すぐ赤くなる人の深酒はいただけない。たとえば赤くなる人は1合で終わりと徹底させると、食道がんは今の半分に減るだろう。節酒が有効だ。一方、白人や黒人は日本人よりはるかにたばこには弱い。だから、米国でたばこのパッケージに健康被害の警告表示するのは理解できる。日本ではむしろビール缶に、赤くなるなら控えましょう、と書くべきだ。

──3分の1の運はどうにもならないのですか。

ここが大事なところで、たとえば血圧が低くてコレステロール値も低い人が脳出血を起こす危険性は小さい。脳出血は生活習慣病だから、生活習慣に気をつければ起こらない。がんも3分の2は生活習慣がかかわる。

3分の1の運については、つねに例外があると見ることだ。あいつを見ろよ、たばこを吸い真っ赤な顔になるまで酒を飲んできた。だけど90歳まで生きた。そういう人はいる。また、あいつはたばこは吸わないし酒も飲まない。しかしがんになった。そういう人もいくらでもいる。

しかし聖人君子100人、ヘビースモーカー100人いて、どちらががんになりやすいかといえば、ヘビースモーカーだ。この中にも運のいい人はいる。例外を見て自分の間違った行動につなげてはいけない。

──がんに家系はないなど、俗説の真偽を明快に判定しています。

焼肉の焦げを全部取り除いている人がいるが、そんなの食べてもうまくない。じゃんじゃん食べても平気だ。年を取るともうがんができないのでは、という人がいるが、これも迷信。家系についていえば5%程度の有意さだ。がんにならない生活習慣を心掛けるのが唯一の回避法だ。

なかがわ・けいいち
1960年生まれ。東京大学医学部医学科卒業後、放射線医学教室入局。スイス、ポール・シェラー・インスティチュートに客員研究員として留学。93年東大医学部放射線医学教室助手、96年専任講師、2002年より現職。03年より緩和ケア診療部長兼任。著書に『死を忘れた日本人』など。

(聞き手:塚田紀史 撮影:今井康一 =週刊東洋経済2011年5月28日号)


『がんの練習帳』 新潮新書 735円 205ページ

  

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