なるか、ならないか原因の3分の1は運--『がんの練習帳』を書いた中川恵一氏(東京大学医学部附属病院放射線科准教授)に聞く
日本で手術が多いのは、それ以外の方法を知らないからだ。多くの人はがんの治療というと手術を思い浮かべ、誤解を共有してしまっている。ほかの方法を知らなければ選べない。知らないならば、商品知識のない消費者と同じだ。日本の医療がよくならない理由は、消費者、つまり患者の知識が乏しいことで、結果的に医者が優位にあるから。先進国の中でもこれほど医者が偉そうにする国はない。患者が手術しかないと思えば、外科の先生は、ではそうしよう、と当然なってしまう。
──知識といえば、原発事故での放射線の理解もあやふやです。
作業者以外、放射線で健康被害は出ないはずだが、日本人は怖がっている。年間100ミリシーベルトを浴びて、発がんの可能性が0・5%上がる程度だ。今2人に1人ががんになる、つまりがんになる確率は50%だから、51%に増える。それは受動喫煙による発がんリスクの上乗せより小さい。多様な発がんの要因の中に埋もれてしまうレベルだ。
──がん治療の選択肢を選ぶにしても知識が必要です。
がんの治療において選択肢はある。有効性が科学的に検証されているのは手術と放射線と抗がん剤。白血病を除く固形がんを完治させるのなら手術と放射線、この二つしかない。
二つでも選択肢があれば迷うかもしれない。これはそれぞれの人が置かれた立場や価値観に応じて決めることになる。この本で、たとえば前立腺がんになった青山三郎という高等遊民は、結局手術を選ばなかった。それは彼女がいて、デートのために男性機能を温存するという選択をしたからだ。彼はその部分に価値があると考えて、放射線を選んだ。彼にとっては宝の持ち腐れに終わったが。
──前立腺がんは肉食と関係があるそうですね。
前立腺がんは男性ホルモンの刺激で増える。天皇陛下は放射線治療をせず、手術をして再発し、今は男性ホルモンを抑える注射を行っている。この場合、昔は精巣を取った。それと同じ効果が注射で得られる。人間はコレステロールを材料にして体内で男性ホルモンを合成している。したがって、肉を食べなければ男性ホルモンは増えない。