免疫の中心的な役割を持つ、いわば司令塔的存在がT細胞です。T細胞が、私たちの健康な細胞を攻撃しない理由の1つは、免疫チェックポイントを持っているからです。T細胞が持っているPD-1、CTLA-4といった「鍵」が、正常細胞にある「鍵穴」と結合すると、T細胞は相手の細胞が「攻撃してはいけない仲間」と認識するのです。
しかし、がん細胞はもともと正常細胞の遺伝子に傷がついてがん化したものなので、これらの鍵穴を持っています。がん細胞はこの仕組みを悪用し、鍵穴とT細胞の鍵を結合させ、免疫細胞の攻撃を免れます。
この鍵と鍵穴が結合できないようにする薬品が免疫チェックポイント阻害剤なのですが、このような免疫システムを利用する治療法も決して万能ではありません。
マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者たちは、がんになったマウスの腫瘍から切り取ったがん細胞のDNAを、薬品によって損傷させ改めてマウスの腫瘍に戻すという方法を、免疫療法と組み合わせることにしました。いわばがん細胞を「半殺し」にしてそれを腫瘍に再び戻す、という方法です。
これを実験で試してみると、黒色腫と乳がんに対して効果を発揮し、免疫療法の併用によってマウスの40%においては腫瘍が完全に消滅しました。
がん細胞が「介錯」を求めるサイン
健康な細胞は回復の見込みがないほど大きく損傷すると、がん化など深刻なエラーを起こす前に、免疫システムに対して自らの「介錯」を求める信号を発します。これはアポトーシスと呼ばれる細胞の自殺なのですが、自分で「もうだめだ、殺してくれ」というサインを出して、免疫細胞に自ら殺されることを頼むわけです。
これは正常な細胞の場合ですが、がん細胞も「介錯」を求めるサインを出すのであれば、免疫細胞にそれを認識させて、より有効にがん治療を行える可能性があります。