斎藤幸平「企業に商品化される神宮外苑」の大問題 「私有地だから自由」は社会の豊かさを破壊する

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資本主義は、私たちを商品や貨幣に依存させ、自分たちで何かを決めたり、作ったりする力を奪っていく。自治の力を奪っていくのだ。資本は、あらゆるものを独占しようとし、所有の論理だけで市民を排除し、民主主義も終わらせていく。

1970年代のように、公害問題で企業を追い詰めるような大きな反対運動になった時代と比較すると、今の時代は企業の思考、資本の論理に順応するようになってしまった。「包摂」の度合いが強くなり、人々の思考や欲望を規定している。そこにくさびを入れていかないと、いくら社会を変えていこうと言っても広がらない。

神宮外苑の見慣れた風景は一変する(記者撮影)

ところが、今回の神宮外苑の再開発に反対する運動では、少し希望を持てる変化の兆しがある。いろんな立場の市民が、自分なりの運動の仕方をやっているが、それに触れる形で、私もこの問題と出会ったし、坂本龍一さんも市民に背中を押されて反対の声をあげた。サザンオールスターズの桑田佳祐さんの反対も、その流れの中にある。市民の小さな声が世論を変えつつある。

手っ取り早いお金稼ぎとして「商品化」

――資本主義に対するある種の疲れ、違和感のようなものが反対運動の背景にあるのでしょうか。

日本でも資本主義は明らかに行き詰まり、新しいフロンティア(市場)がなくなった。イノベーションや新しい産業でお金を儲けていくという一般的な資本主義のあり方が機能不全に陥っている。そんなときに、手っ取り早いお金稼ぎとして、これまで商品になってこなかったもの、公共性の高い富として管理されてきたものを無理やり商品化している。

神宮外苑は都心にありながら、商品化してはならない場所だとされてきたが、そうした社会規範を無視して、土地の所有者がどう使うのも自由であるという思考に変わった。これが広がっていくと、公共性の高い土地や物でも、大企業とお金持ちが好き勝手にできることになる。それは民主主義と相容れない。

100年にわたって守られてきた神宮外苑のような場所を、ごく一部の政治家や企業の意思決定で壊すことへの反発は強い。行き過ぎた商品化(再開発)に対し、自分たちで「コモン」について議論し、決定し、管理したいという、自治の力を取り戻していくプロセスが始まったと思う。

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