新制度になっても「待機児童」は解消しない ワーストの世田谷区にその理由を聞いた

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問題が解決しない要因について、世田谷区は「共働きの増加」を挙げる。保育所への申し込み数は、未就学児世帯全体の約40%に上り、10年前に比べ倍増しているという。「特にリーマンショック以降、増えた」と、上村氏。また、最近の傾向についてこう語る。「赤ちゃんの数が右肩上がり。昨年の出生数は7965人だった。また、ここ5年で家族世帯の転入も多く、未就学児が毎年1000人ずつ増えている」。

Aさんも昨年、世田谷区にマンションを購入した転入組だ。保活激戦区と知りながら、なぜ世田谷区を選んだのか。「実家が近く友人も多いなじみの地域。住宅地で環境もよい。家を売却するにしても物件価格の下落リスクが低い。隣接区も待機児童の状況がよいわけではない」。

職住近接が子育て世帯のトレンドとなる中、街の魅力は待機児童を激化させる一因となっており、区も複雑な心境だろう。世田谷区は2023年に子どもの数が減ると予測するが、人口予測にハズレはつきもの。「現在の人口は都内最大の88万人。10年前の予測より5万5000人も増えた。5万人とは、市がひとつできてしまう規模。今後も人口予測は難しい」(上村氏)。このほか、「静かに暮らしたい」という住民の反対もあり、施設整備が計画通りに進まない懸念もある。

共働きの増加、ファミリー層の都心回帰、3歳の壁、住民の施設建設反対――。激戦区に共通する問題ばかりだ。世田谷区は、まさに都心の待機児童問題の縮図。新制度は、あくまで実施主体を自治体としているが、努力が報われない状況から、上村氏はこう漏らす。「育休を長めにとってもらわないと待機児童は解消しない。企業も、育休後にキャリアが遅れないよう女性を支援してほしい」。

理想は10~15時の超時短勤務

実際のところ、「環境さえ許せば長く休みたい」「無理なく働きたい」と思う女性は多い。Aさんも、本当のところはバリバリ働きたいわけではない。本音は「子どもが中学生になるくらいまでは、10~15時の超時短勤務が理想。高コストなのは重々承知だけど、せめてフレックスを使いたい」。

さらに、「特に外資系含む中小企業にとって、育児中の社員を抱えるのは負担になる。たとえば、時短勤務社員の割合に応じて補助を出すなど、国から企業に対して支援はできないものか。会社が積極的に働くママを支えたいと思えるような政策があれば、女性も働きやすくなるのでは。また、子どもがいない人や男性にも不公平感のない配慮を」と提案する。

待機児童解消につながるかは別にしても、「子育てしやすい社会」の実現のためには、世田谷区やAさんの言うとおり、自治体だけではなく国や職場の支援と同時に、育児中の人を「サポートする人たち」への配慮なども必要だろう。

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