「小児医療」家族の葛藤伝える漫画家の切なる思い 漫画「プラタナスの実」が挑んだ答えのない問い

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東元:患者を救うことで医師も救われる、というのは、取材でもそういうような言葉をお聞きすることができて、僕自身も共感しました。小児科医や従事者の多くの方々が子どもたちの笑顔や元気な姿に救われ、それが活力になっています。

でも患者を救うとはどういうことなのか? 作中ではその本質のようなものについても少し描かれています。

真心と英樹、兄弟の姿から描きたかったこと

──真心、英樹がそれぞれ過去を振りかえりながら、最後は兄弟でキャッチボールする場面が印象的でした。野球を封印して医療の道に進んだ英樹。途中で母が亡くなって家族との同居を拒んだ真心。

キャッチボールを通して幼少期、そして大人になってから描きたかったことはどんなことでしょうか?

東元:シンプルに「人はやり直すことができる」ということです。兄弟で力を合わせて過去の傷を縫っていくようなイメージでキャッチボールのシーンを考えました。

小児科医となった兄と弟。対立することも多い2人の過去には、壮絶な家族の記憶も──(画像:『プラタナスの実(1)』より)

──真心はわかりやすく患者に寄り添う先生ですが、英樹は幼少期の孤独や兄としての葛藤、母のいない寂しさなど誰にも気づかれないところで苦悩を抱えていたのかと思います。

しかし、口調がクールで指摘も的確であるため、周りから誤解を生むことも。一般社会でも英樹のような人はたくさんいそうですが、英樹を通して伝えたいこと、意識したことはありますか?

東元:もしかしたら英樹はそんな自分の不器用さにもコンプレックスを感じていたかもしれませんが、僕はそういう人が社会にいてもいいと思ってます。確かに誤解されることもあるでしょうし、人とうまくいかないことも多々あるかもしれません。

しかし英樹のいいところは自分の考えを自分の口ではっきり話したことだと思います。さすがにモラハラとかはよくないですが。意見を言えるのは社会人として立派だと僕は思ってしまいます。

──子どもの親について。タクシー運転手の妻のように子どもに過保護になる親や、育児学級を渋る親、またモンスターペアレント、モンスターファミリーについてどんなこと思いますか?

医療従事者にとっては大変な家族、やっかいな家族と片付けてしまう人も多いかもしれませんが、医療従事者はもちろん、家族側の気持ちや背景について、どのようなことを考えながら描かれましたか?

東元:この漫画に登場する大人(主人公側も含めて)は、割と子どもっぽい人が多くて、未熟なキャラクターが多いです。子どもは逆に強くてたくましいキャラクターが多い。意図的にそうしました。

自分が親になってよく思うのは、自分は全然大人じゃないなって。子どものほうが大人らしいときもある。

作中に出てくるモンスターペアレントも、決して悪役として描いてるわけではなくて、まだ少し大人になれていないだけ。鈴懸家がまだ過去を引きずっているのも、大人になれていないだけなんです。

それでも、みんなそれぞれいろんな事情を抱えて、いろんな暮らしがあって、いろんなことを反省しながら生きてるはず。作中の小児医療を通して、それぞれのキャラクターが少しだけ成長していく物語を描きました。 

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