「小児医療」家族の葛藤伝える漫画家の切なる思い 漫画「プラタナスの実」が挑んだ答えのない問い
──サッカー少年・黒田優希くんの治療方法を巡り、真心先生は保存を、英樹先生は手術を、吾郎は最終的に手術を勧めました。
患者を救いたいという気持ちは一緒でも、プロのサッカー選手としての将来や治療のタイミングなど課題がたくさんあり、現実の医療現場でもつねに課題、葛藤があるかと思います。
ここに着目した理由や意識したポイント、注意などありましたら教えてください。
東元:この漫画では大体どのシリーズでも同じようなことがテーマとして描かれているのですが、それは家族の自立です。
最後のシリーズでは、手術をすれば病気はなくなるけれど、子どもの夢はかなわなくなる。そのときの医師の葛藤や、患者や親の葛藤が描かれています。
患者の夢と家族、医師が諭した治療の目的
東元:作中ではプロのサッカー選手になる夢を諦めたくない優希君と、夢をかなえさせたい医師、患者家族を描きました。「手術はしない」という考えは全員が同じです。
ですが病気が改善せず手術が迫ります。夢を諦めなければいけない現実が迫ります。そのとき大人たちはどうするのか?
吾郎はこの治療の目的は優希君の夢をかなえることではなく、この先の未来に優希君が自立した大人になることだと諭します。
重要なのは子どもの幸せの定義を大人が決めつけないことなのかなと思ってます。夢をかなえることは確かにすばらしいことだけど、人生というのはほかにもすばらしいことやかけがえのないものがたくさんある。知らない世界が無限にある。
失敗したら終わりではなくて、誰でもいろいろなことに挑戦できる。そう信じてます。もちろん、気持ちをすぐに切り替えることは難しいと思いますが、そこに家族や医師のサポートがあれば乗り越えることができる。
そういう祈りのような気持ちでこのシリーズを描きたかったんです。なので「プロのサッカー選手」「潰瘍性大腸炎」というハードルの高いものを選びました。
──優希君を診察すると、想像以上に状態が悪化していたことが判明。結果的に手術によって救われましたが、そのときの真心の気持ちや葛藤、現実の受け入れなど、どのような変化を伝えたいと思われましたか?
患者を救うことで、自分が救われるとの言葉もありましたが、どのようにお考えでしょうか。
東元:真心にとっては相手の患者が思春期の年頃ということもあって、難しい治療になったと思います。小児科医として絶対に手術はさせたくないですから。優希君もそう望んでいます。
潰瘍性大腸炎は症状が良くなったり悪くなったりアップダウンが激しい病気でもあるので、それに翻弄されるようなキャラクターの姿を描いて、読者にも病気のことを知ってもらいたいと思いました。
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