セロトニンの分泌量がさらに減ってしまうと、幸福感すら覚えなくなっていきます。すると、「もう誰にも必要とされていない」と感じ、「オレなんて、もうどうでもいいや」と投げやりな気持ちになったり、不幸を数え始めたりするようになります。こういった思考に陥ると、老人性うつを発症している可能性があるのです。
ときどき、「もう、いつお迎えが来てもかまわない」といったり、「早いところ、お迎えが来てくれないかしら」と願ったりする人がいます。そうした言葉も、老人性うつを発症すると口にしやすくなります。セロトニンが減ってしまうと、「生」に対する前向きさを失ってしまうのです。
肉を食べれば幸せもやってくる
アメリカの老年医学の教科書には、65歳以上の5%、つまり、20人に1人がうつ病を抱えている、と書かれています。
日本では、「精神科にかかるのは恥ずかしい」と思い込んでいる人が多い傾向にあります。病院や周囲の人に頼れず、1人で苦しんでいる人の数は、日本ではかなり多いと推測されます。
私が患者さんと接している感覚では、一時的に気分が落ち込む「抑うつ状態」の人も含めて、65歳以上の人の15%程度が老人性うつ、もしくは抑うつ状態にあるのではないか、と考えています。
なんの対策もしなければ、加齢とともにセロトニンの分泌量は減ります。だからこそ、心の老い支度ができていないと、セロトニンの分泌量は減る一方となり、気分が落ち込みやすくなってしまうのです。
セロトニンが減れば誰でもなる病気が、うつ病です。
◎肉には幸せホルモンを促すアミノ酸がたっぷり
高年になったら、自分の体に不足しているものを、どんどん足していきましょう。私は、これを「足し算健康術」と銘打っています。足し算健康術は、幸福感を高めるための老い支度の秘訣です。
セロトニンも放っておけば不足するので、きちんと足していきましょう。
では、どうやって足せばよいのでしょうか。
1つは、先述したように、外出して日光をたくさん浴びること。日光を浴びることが、セロトニン分泌のスイッチを押すことになります。
もう1つは、動物性たんぱく質の宝庫である「肉」を食べることです。たんぱく質は筋肉や血管、皮膚や粘膜など、ありとあらゆる組織の材料となる物質です。
なかでも、肉には、セロトニンをつくるための材料の1つである「トリプトファン」という必須アミノ酸が、豊富に含まれています。当然、魚や大豆製品にも多く含まれていますが、高年者が敬遠しがちな肉も、セロトニンを補強するために、しっかり食べたほうがよいのです。
日光浴というスイッチを押し、肉からトリプトファンを摂取することで、セロトニンの分泌力が高まります。
それでも、気持ちが上向かないときには、精神科を受診し、脳内のセロトニン量を増やすための薬を処方してもらいましょう。脳内のセロトニンを増やすタイプの抗うつ剤が、老人性うつには有効です。
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