そして、同じホームで過ごす仲間たちと、互いに通じていない言葉で、なんとも楽しそうにおしゃべりをされています。これを老年精神医学では「偽会話(ぎかいわ)」と呼びます。
そんな、朗らかでのどかで幸せそうな姿からは、「最後には、人は無邪気だった頃に戻れるんだなぁ」と、老いる幸福を教えてもらえます。
反対に、「不幸になる老い方」があります。それは「老人性うつ」を発症することです。老人性うつとは、65歳以上の人に起こるうつ病のことで、私は、高年者の病気の中で最も怖いものではないか、と感じています。
65歳超えでうつのリスクが上がる
この老人性うつは、65歳を過ぎると発症リスクが高まります。
発症すると、老いる幸福感が奪われます。来る日も来る日も不安から逃れられず、身体的な不調も続きます。大変につらい日々が続くことから、自らを死に追い込んでしまう人も多くいるのです。
多くの皆さんは、年を重ねると、体や脳の老いばかりを気にしていますが、感情の動きが失われるといった「心の老い」も問題です。
そこで、心も全身の老いを受け入れて、余裕を持ったよい年の取り方をしていきたいものです。これを私は「心の老い支度」と呼んでいます。
◎幸福な気持ちは、日光に当たることで生まれる
心の老い支度ができれば、老人性うつを、かなりの確率で防げます。認知症は防げませんが、認知症への恐怖は消えます。なお、認知症は決して怖い存在ではありません。
多くの人は、晩年の人生をよりよく生きるためには、「不自由しないくらいのお金が大切」、あるいは「健康な体こそ大切」と考えます。しかし、65歳からの人生に心の健康より大事なものはない、と私は声を大にしていいたいと思います。
そこで、まず実践していただきたいのが、「外に出て、日光に当たる時間を長く持つこと」です。散歩をするのでもいいですし、ゴルフやガーデニング、パートナーや友人とのお出かけや旅行を楽しむのでもけっこうです。とにかく、外に出かけましょう。
なぜなら、日光に当たることで、心の老い支度において最も重要なセロトニンが、神経から多く分泌されるからです。
セロトニンは、幸福感を伝える神経伝達物質で、「幸せホルモン」とも呼ばれます。このセロトニンの分泌量が、人の幸福感を左右しています。
たくさん貯金があるのに、自分の足で歩ける体があるのに、家に引きこもりがちになり、自分を「不幸」と思い込む人がいます。これは、セロトニンの分泌量が少ないことが一因です。セロトニンの分泌量が減れば、今ある幸せに気づきにくくなります。
反対に、積極的に外へとくり出して、「お金がなくても、毎日楽しいし、とっても幸せ」と、ドーンと構えて暮らす人もいます。ささやかな出来事に幸せを感じられることにも、セロトニンの分泌が関与していると考えられます。
◎65歳以上の15%程度はうつ状態
「私の人生、こんなもんか」
65歳を過ぎると、人生の先が見えたような気がして、あきらめの感情を持ちやすくなります。この思考こそ、「幸せホルモン」である神経伝達物質・セロトニンの分泌量が減っている証、ともいえるでしょう。
実際、65歳を過ぎると、セロトニンの分泌量が減っていきます。
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