新NISA(少額投資非課税制度)が来年1月からいよいよ始まるが、この信託報酬引き下げのきっかけを作ったのは、まず日興アセットマネジメントの「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」の設定だった。信託報酬0.05775%で世に出た。
さらに、野村アセットマネジメントも「はじめてのNISA・全世界株式インデックス(オール・カントリー)<愛称:Funds-i Basic 全世界株式(オール・カントリー)>」を出して同水準で続いた。
「ライバルの挑戦」に三菱UFJは値下げで競争力を維持
eMAXIS Slimシリーズは「同種のファンドについて、他社がより安い信託報酬を提示した場合、同水準まで下げる」と公言して、事実そのように信託報酬水準を下げてきて投資家の人気を集め、資産残高を拡大してきた。ライバル2社が「では、この水準に追随できるか」と挑発するように、安い信託報酬のファンドをぶつけてきたのが、今回の引き下げのきっかけだ。
三菱UFJ国際投信は当初、信託報酬に含まれるコスト内容に違いがあることなどを理由に、直ちには追随しなかったのだが、今回、もともと発表していた方針のとおりに信託報酬の値下げを発表した。先の残高で概算すると、年間、約15億6000万円の収入が約7億9000万円に減少する、7億7000万円の減収要因だ。
従来、つみたてNISAなどの資金を吸収して資産残高を増やすeMAXIS Slimシリーズに対して、ライバル他社は「競争しても儲からない」とばかりに静観を決め込んでいたように見えたが、三菱UFJ国際投信の運用資産残高が急拡大したことに加えて、2024年から始まる新しいNISA制度での顧客獲得競争を考えたときに、三菱UFJ国際の独走を座視できなくなったのだろうと推察される。
これまでのつみたてNISAでは投資家1人当たり年間40万円の投資枠だったが、新NISAではこれが年間360万円、総枠で1800万円まで拡大する。しかも、NISA口座は顧客1人が1つの金融機関にしか持てないので、つみたて枠で利用可能なインデックス・ファンドの競争力が、顧客が主に取引する金融機関の選択に波及しかねない。
もろもろの影響を総合的に考えると、ライバル会社も同種のファンドで追随せざるをえなくなったし、安い信託報酬で挑発された三菱UFJ国際投信も、当面の減収を我慢して業界最安をキープすることが適当だと判断したのだろう。
投資家の立場から見ると、既存の投資家の場合、100万円当たり年間5百数十円の差であれば、手間と時間をかけて投資対象商品を変更するには及ばない(むしろ時間コストがもったいない)ケースが多いだろうが、新規の投資家になると、最安の商品を選びたくなる可能性が大いにあるし、これが金融機関の選択にも影響するかもしれない。
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