池上氏解説「墜落死」のプリゴジンは何者だったか 三角関係のもつれと、敗北に至った背景

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ワグネルは、中東やアフリカ諸国の内戦にも介入しています。

シリア内戦ではバッシャール・ハーフィズ・アル=アサド政権を支援しました。ワグネルの兵士が大勢シリアに入り、アサド政権の先兵となって反体制派を激しく弾圧。民間人を拷問にかけて虐殺するなど、彼らの悪行が報じられました。

その後、ワグネルという会社は、シリアの石油採掘権、販売権を獲得しています。

スーダンでは、ダイヤモンド鉱山での警備を請け負っています。その見返りにダイヤモンド鉱山の採掘権を手に入れているのです。中央アフリカでは政府に雇われ、反政府勢力を弾圧しています。

いわば「三角関係のもつれ」

最近では、アフリカのマリでの関与が明らかになりました。マリは宗主国がフランスですから、親フランスの国でした。そのマリでイスラム過激派が台頭し、国軍と激しい戦闘を繰り広げていました。フランスも軍事介入し、マリ軍を支援してきました。

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そのマリで軍部がクーデターを起こし実権を握ると、親フランス政権から親ロシア政権に変わりました。軍事政権が金を払ってワグネルを雇い入れたのです。

フランスのメディアによると、民間人が大量に殺されたといわれています。

アフリカ利権で莫大な収入を得ていたワグネル。

今回は、ワグネルと近い関係にあったとされるロシア空軍のセルゲイ・スロビキン総司令官も解任されています。武装反乱を起こしたプリゴジンは、ショイグらロシアの官僚の無能さを直訴し、プーチンの自分への“愛”を確かめようとしました。

プリゴジンの乱は、プリゴジン、プーチン、ショイグの「三角関係のもつれ」と考えると、わかりやすいかもしれません。そして、プリゴジンが敗北したのです。

池上 彰 ジャーナリスト

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いけがみ あきら / Akira Ikegami

1950年、長野県生まれ。1973年慶應義塾大学卒業後NHK入局。ロッキード事件、日航ジャンボ機墜落事故など取材経験を重ね、後にキャスターも担当。1994~2005年「週刊こどもニュース」でお父さん役を務めた。2005年より、フリージャーナリストとして多方面で活躍中。東京工業大学リベラルアーツセンター教授を経て、現在、東京工業大学特命教授。名城大学教授。2013年、第5回伊丹十三賞受賞。2016年、第64回菊池寛賞受賞(テレビ東京選挙特番チームと共同受賞)。著書に『伝える力』 (PHPビジネス新書)、『おとなの教養』(NHK出版新書)、『そうだったのか!現代史』(集英社文庫)、『世界を動かす巨人たち〈政治家編〉』(集英社新書)など。

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