台湾で「日本酒の市場が拡大」背景にある事情 コロナ禍で輸出が拡大、提供する店も増える
数字で見ると、上記のような話なのだが、では実際に台湾の市場はどうなっていたのか。現場で働く人に話を伺った。
「昔、台湾で日本酒というと、カップ酒など普通酒がメインで、吟醸酒などはありませんでした。私がこの業界で働き始めた2008年には代理店は4社のみ。4社とも2002年に台湾がWTOに加盟して参入した代理店です。銘柄は限定的で、代理店の仕入れた銘柄がレストランで提供される状態、つまりレストラン側に選択肢があまりなかったんです」
そう語るのは台湾代理店で働く陳建偉さんだ。国際唎酒師(ききさけし)の試験を日本語で受験して有資格者となり、海外でも日本酒ソムリエとして活動した経験を持つ。
「国際唎酒師」は「外国語で日本酒の提供・販売を行うプロフェッショナル」で、日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)の公認資格である。海外における日本酒のPRには欠かせない人材だ。
2014年からは台湾現地で試験が実施され、いまや認定校・提携校あわせて10校ある。有資格者は全体で5000人、うち台湾人は20%近くにのぼる。この資格とマーケットの動きを陳さんはこんなふうに説明する。
「国際唎酒師の有資格者となった人たちが、自ら代理店を開業したり、日本酒バーを開店したりして、台湾の日本酒業界は一気に拡大しました。台湾の日本酒輸入金額はこの十数年で3倍になったわけですが、代理店の数は10倍ですね。輸入は個人経営や小規模の会社でもできますからね」
さらに「日本食レストランの増加で日本酒の販売チャネルが増えた」と陳さんは言う。
JETROの2018年調査では「台湾には日本食レストランが9053軒」とある。これ以降に進出した日本食チェーンを含めれば、軒数はこれを上回るだろう。
出張シェフも日本酒を採用
もう1つ、陳さんが指摘するのは「私厨」と呼ばれる出張シェフの存在だ。
「それまで主流だったレストランでの食事のほかに、コロナを経験したことで出張シェフに料理を作ってもらうサービスが増えてきました。そうした場では、ウイスキーやワインを合わせることが多かったのですが、日本酒が採用されるようになりました」
こうしたサービスを利用するのは、台湾の富裕層だ。もちろん、そのすべてで日本酒の提供があるわけではないが、これら提供場所の拡大が販売増につながっていることは間違いないだろう。
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