台湾で「日本酒の市場が拡大」背景にある事情 コロナ禍で輸出が拡大、提供する店も増える
ところで、日本で販売されている日本酒を知る者として気になることがあった。
それは価格差だ。日本なら1000円強で入手できる銘柄が、台湾で買うと1000元(約4500円)する。いくら円安でも、単純計算で4.5倍は手が伸びにくい。
JETRO制作の「日本酒輸出ハンドブック」には、蔵元から商品が出荷されてから、最長「約1カ月」で小売店に届くとある。経路は、蔵元から輸出業者に渡り、コンテナに搭載されて税関を通過、そこから海路で台湾の基隆港に送られ、基隆港で検品されたあと、台湾の輸入業者に渡され、そこから小売店に渡る。これが一般的なルートのようだ。何重にも業者が関わり、それぞれに手数料が加算され、反映された結果が小売価格になる。
同ハンドブックは2018年3月制作で、当時の関税は40%だった。実は2019年に関税が20%に下げられた。それにもかかわらず輸出額は伸びたから、台湾の消費力がそれを上回ったといえる。陳さんは「日本の人たちにとっては、日常の飲み物かもしれませんが、台湾人にとっては『嗜好品』ですからね」と言いながら、補足してくれた。
日本酒は品質管理が大変
「台湾で日本酒を販売するにあたっていちばんのコストは、品質管理です」
今、陳さんの会社で扱う銘柄は新潟の白瀧酒造の上善如水、宮城の一之蔵など、日本全国約120社が加入する「日本名門酒会」所属の蔵元で製造された品だ。「昨年だけで600以上の銘柄を扱いました。種類が増えて大変です」と話す。
日本酒の保管には冷蔵設備が不可欠だ。台湾の小売店や居酒屋などの店頭では、冷蔵された日本酒が並ぶ。先述した物流プロセスのすべてで、冷蔵設備があって品質管理が行われるのだから、単純な輸送費だけではなかったのだ。
「工程のどこかで品質管理を怠った場合、それはその工程だけの問題ではなく、結果として『この酒はおいしくない』とブランド全体を毀損します。それは、酒米を生産する農家に始まり、蔵元さんたちが積み重ねてきた努力をすべて無駄にする。われわれ、代理店の責任は非常に重いんです」
ハッとした。こうした熱い思いが市場を拡大してきたのではないか。陳さんは、取材の最後に、こう教えてくれた。
「個人的な意見ですが、高知県の酒は台湾の料理にすごく合うんです。台湾の料理はこってりしているけど、高知県のお酒はそれに負けてない」
台湾の料理に合うなら、日本酒の売り場はぐっと広がる。台湾のレストランで日本酒が広まるのは、そう遠くない気がした。
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