変形地で「トンデモ物流施設」が開発される事情 「投資過熱」の異常相場はついに終焉を迎えるか

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物流施設に特化した仲介会社のディールエージェントの楫西一太社長は、「7~8年前から貸し手優位のマーケットだったが、2022年頃から潮目が変わった。これまでは竣工前にテナントが決まる物件が大多数だったが、足元ではフリーレントや賃料の値引きがないと決まらない物件が出てきている」と指摘する。

リーシング苦戦の背景にあるのが、国内外の投資マネーを当てにしたデベロッパーによる物流施設の過剰供給だ。不動産サービス大手のCBREによれば、首都圏大型マルチテナント型物流施設の空室率が2021年から上昇へと転じ、2022年9月末には空室率が5%を超えた。2023年6月末時点での空室率は8.2%であり、実質賃料は坪4510円に低下した。

冒頭とは別の大手デベロッパー幹部は、「相場の募集賃料より1~2割ほど値下げして何とか物流施設のテナントをかき集めようとしている事業者もいる」と明かす。

圏央道エリアは明らかに供給過多

とりわけ苦戦を強いられているのが圏央道エリアだ。2023年4~6月期の新規供給が11.1万坪と過去最大だったのに対して、新規需要は5.6万坪にすぎない。2023年6月末時点での同エリアの空室率は13.7%だ。「圏央道エリアでないと開発用地が仕入れられない」(複数のデベロッパー関係者)というデベロッパー側の論理で施設が開発されたことで、供給過多に陥っているといえよう。

物流施設開発の動きは圏央道エリアにとどまらない。ある物流業界幹部は「栃木や群馬で物流施設を開発できそうだが、坪5000円くらいの賃料で物流企業に貸せるだろうか、とデベロッパーから相談された。そんな割高な施設使うわけがない」と呆れる。

2024年4月からドライバーに残業規制が適用されることで物流の「2024年問題」が顕在化する。船井総研ロジの赤峰取締役は、「圏央道エリアは倉庫内作業員を確保しづらいうえに、近隣の運送会社の数も限られる。都心への配送にも時間がかかるため、2024年問題を見据えるとテナント側のリスクが大きい。また新規供給された物流施設は、賃料が高すぎて物流企業からすれば借りづらい物件が多い」と説明する。

今後のマーケット動向を関係者はどう見るのか。「物流企業や荷主の需要は堅調に増えているものの、10%前後の空室率を埋められるほどの新規需要はなさそうだ。今後2~3年程度は優勝劣敗のマーケットとなるだろう」と、大手デベロッパーのプロロジス日本法人の山田御酒会長兼CEOは見通す。

ただ、マーケットの先行きを悲観する声はデベロッパー関係者からはあがらない。2022年頃から、土地代のみならず建築費が高騰しており、足元では物流施設の新規供給が停滞しているためだ。ある中堅デベロッパーの関係者は「建築費が上昇したことで事業収支が合わず頓挫する開発プロジェクトが出始めている」とこぼす。

機関投資家などの不動産投資需要を享受してきた物流施設マーケットだが、異常相場は終わりつつある。

佃 陸生 東洋経済 記者

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つくだ りくお / Rikuo Tsukuda

不動産業界担当。オフィスビル、マンションなどの住宅、商業施設、物流施設などを取材。REIT、再開発、CRE、データセンターにも関心。慶応義塾大学大学院法学研究科(政治学専攻)修了。2019年東洋経済新報社入社。過去に物流業界などを担当。

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