「ちゃんと勉強する子ども」が褒められがちだからこそ…
作者の山田詠美さんは、かっこいいことや美しいことにとても敏感な方です。だからこそ、世間が子どもたちに求めるものが、かっこいいことや美しいことではなく、ただ「ちゃんと勉強すること」であることに我慢ならなかったのではないでしょうか。
いや、作者の本意はここではどうでもいいです。とにかく、秀美くんと脇山くんの対立を通して、私たちは「秀美くんはかっこよくて、脇山くんはかっこわるい」ということを痛烈に理解します。
かっこいい、の基準。それを言いかえると、美意識、ということです。秀美くんにあって、脇山くんにないもの。それは美意識なのですね。だからこそ『ぼくは勉強ができない』という小説は――美意識とは何か、ということを描いた小説なのです。
秀美くんは、たしかに勉強ができないけれど、美意識はちゃんとある。だけど、学校は美意識というものをあまりにも軽視している。だから秀美くんが居心地の悪さを覚えている。だけど学校の外には、美意識という大事な判断基準があるんですよ、と、『ぼくは勉強ができない』という作品は伝えています。
……ね、これだけでちゃんとした読書感想文になるでしょう。一ミリも自分の話はしていませんが。
ぼくは確かに成績が悪いよ。でも、勉強よりも素敵で大切なことがいっぱいあると思うんだ―。17歳の時田秀美くんは、サッカー好きの高校生。勉強はできないが、女性にはよくもてる。ショット・バーで働く年上の桃子さんと熱愛中だ。母親と祖父は秀美に理解があるけれど、学校はどこか居心地が悪いのだ。この窮屈さはいったい何なんだ!凛々しい秀美が活躍する元気溌刺な高校生小説。
連載の第1回、2回では「先生に褒められる」読書感想文の書き方を解説してきました。そこでは、
① 自分の嫌いなモノについて書いた本を選ぶ
② その本を読んで「嫌いだったモノが、好きになった」内容の感想文を書く
という2つ要素を紹介しました。
しかし、今回の記事でわかるように、自分の話をしなくても、読書感想文は書けるのです。
それは「テーマと構造」、つまり「この本は●●とは何かを書いた話だ、それは●●と●●の対立によって描かれている」。この2ステップをしっかり説明するだけで、読書感想文になるのです。
本のテーマと構造を、しっかり伝えてあげましょう。「テーマと構造」を書く読書感想文は、先生にはそこまで褒められないかもしれませんが、その本を自分なりにどう読むかというコツを身につけるのは、その後の人生にとても役立つはずです。
私は「ちゃんと本を読む」とは、「テーマと構造をしっかり自分なりに解釈すること」だと思っています。自分自身の価値観なんて入れなくても。本に描かれている構造を整理するだけで、読書感想文は書けるものですよ。
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