台湾を「統一か独立か」の二元論で議論する危険 「一つの中国」めぐる曖昧な現状が崩れる危機

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――中国の習近平国家主席は、経済的手段による統合はうまくいかないと見ているのでしょうか。

胡錦濤政権(2002~2012年)のとき、中国は経済的な融合が進めば台湾との「統一」は近づくと思っていた。しかし交流が進めば進むほど台湾の人たちの意識は中国から離れてしまった。

ふくだ・まどか 国際基督教大学教養学部卒、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了、同後期博士課程単位取得退学。この間、台湾政治大学国際事務学院東亜研究所博士課程へ留学。博士(政策・メディア)。国士舘大学21世紀アジア学部専任講師、同准教授、法政大学法学部准教授を経て、2017年より現職。主著に『中国外交と台湾—「一つの中国」原則の起源』(慶應義塾大学出版会、2013年)、第25回アジア・太平洋賞特別賞

習氏が総書記になった2012年頃に中国と台湾の交流はピークを迎えた。しかし、その頃を境に、中国から見ると多くの問題が出現し、経済関係を深化させることは難しくなった。

例えば2014年、中国と台湾のサービス貿易協定の審議過程がおかしいと、台湾では学生を中心とする社会運動が起きた。その結果として、中国との交流を進めていた国民党から現在の民進党に政権が交代した。

つまり、習氏は共産党のトップに就いた直後から、中国と台湾との関係においてさまざまな問題が表面化するのを目の当たりにしてきた。そのため習主席は、胡錦濤政権が進めた政策を否定し、それとは違うことをやらねばと思っている。

台湾侵攻を視野に入れた軍事演習で軍事力を誇示したり、貿易で特定品目の禁輸などを懲罰的に使ったりと、習氏の時代になって中台関係における中国の力の使い方は大きく変わった。

台湾問題は中国にとっては国内問題であるが、中国の対台湾政策にはその時々の中国外交の方針や姿勢が端的に反映される。2010年代に入って、中国は日本に対して尖閣諸島の周辺で公船の行動などにより現状変更の能力を誇示し、レアアースの輸出禁止など経済関係を懲罰目的に利用したこともあった。

その後、こうした行為を他国との間でも行ったことによって、とりわけ欧米や日本など先進民主主義諸国の中国への信頼感は低下した。さらに、中国のような相手と強固なサプライチェーンを維持することへの不安感が、経済安全保障の議論へと繋がってきている。

中国は日本による台湾独立支持を警戒

――そもそも日本政府は台湾問題について、どういう立場を示しているのでしょう。

日本は1972年の日中国交正常化時に、中華人民共和国が「中国を代表する唯一の合法政府」だと認めることには同意した。これが1970年代に多くの西側諸国が中国を「承認した」という意味だ。

今日の中国は「一つの中国」原則を主張しているが、この原則のなかで中国にとって最も重要なポイントは「台湾は中華人民共和国の一部」であることを相手国に認めてもらうことだ。

「台湾は中国の一部」だという主張については、すべての国が無条件で認めたわけでなく、アメリカはそれを「認識」し、日本は「理解し、尊重」した。これに加え、1972年の日中共同声明には日本が「ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持」することが書かれている。

これは、第2次世界大戦時のカイロ宣言にのっとって日本は台湾を中華民国へ返還し、その中華民国に代わって、1972年以降は「中国」を代表する政府として中華人民共和国を承認するという意味だ。

日中国交正常化交渉で、中国は日本が「理解し、尊重」するだけでは納得しなかった。というのも、日本は敗戦までは台湾を植民地統治し、第2次大戦後は台湾独立運動の拠点ともなっていたからだ。だから日本がポツダム宣言までさかのぼり、台湾への立場をできるだけ明確に示すことで中国はようやく納得したのだろう。

日本としては、敗戦した旧宗主国として台湾問題について自ら何かを言う資格はないが、その時点での現状としては台湾が中華人民共和国の一部だとも言えないという立場をとった。

中国は日本が台湾の独立を支持するのではないかと今も恐れている。日本人には想像しがたいことだが、日本が台湾を再び植民地化しようとしているという議論も中国にはある。中国の軍拡に対応して日本も防衛政策を変化させているが、中国はそれを日本の台湾に対する野心のあらわれだと捉えて警戒している面がある。

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