ゴリラ研究から学んだ人間の本質は「共感力」 元京大総長・山極氏が語る「人間らしい学び」

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さて、他者への関わりの話をしましたが、それに関連してほかの動物にはなかなか見られない人間ならではの能力について知ってもらいたいと思います。それは「共感力」です。共感とは相手の立場でものを考えることですが、人間は進化の過程で「共食」と「共同保育」を推進することによって、その能力を高めました。

約700万年前、人間の祖先が熱帯雨林を出て草原へ進出したとき、草原には食べ物が分散していました。そのため人間は群れのなかでチームを組んで狩猟採集へ出かけ、食べ物を獲得し、安全な場所で待つ仲間のもとへ持ち帰ることが必要となりました。ここから「共食」が始まりました。ほかの動物からしたら食べ物はケンカのもとになるものです。しかし人間にとって食べ物は仲間とつながるための道具となり、コミュニケーションが促進されたのです。

「共同保育」のほうは、熱帯雨林から草原へ出た人間が赤ちゃんをたくさん産むようになったことで始まりました。人間の赤ちゃんは重たく生まれ、身体的成長が遅いので、もともと育てるのに手がかかります。それが多産によってさらにたいへんになり多くの人の手が必要になったのです。

人間の赤ちゃんというのは世話が焼けるうえに、言葉も通じません。そうした相手に共同で向き合うことで人間の祖先は、ほかの動物にはない強い信頼関係を築いていきました。こうした共食と共同保育が行なわれたことで、人間の共感力は高まっていったのです。

学びのあり方

では共感力と学びはどうつながるのか。それは学びのあり方に関係しています。そもそも学問というのは好奇心を探求していくことですが、それは自分1人きりでするものではありません。仲間を見つけていっしょに追い求めていくものなのです。

自分のなかで考えを巡らしても、堂々巡りになって新しい気づきは得られない。自分とはちがう人間と向き合って相手の見方に関心を抱いてこそ、発見できることがあります。自分以外の存在へ目を向けていけるのは、高い共感力がある人間だからこそできることです。

最後に自分の経験をお話しすると、私はあえて自分と合わない人とタッグを組んできました。自分と合う人は着眼点や発想が似通ってしまい、新しいことに出会えないからです。自分と合わない人のほうが、まるっきり考えがちがうのでおもしろい。しかも最初は合わない人でも、時間が経てば信頼できる仲間になる。仲間というのはそうやってつくることもできます。みなさんもこれから自分を広げてくれる仲間を得て、学びの人生を謳歌してください。

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