ゴリラ研究から学んだ人間の本質は「共感力」 元京大総長・山極氏が語る「人間らしい学び」

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なぜゴリラは乳離れが遅いのか。それは永久歯が生えるまでお乳を吸うからです。よって離乳したあとは、すぐに大人と同じ固いものを食べられるようになります。でも人間の子どもはちがいます。人間は乳離れが早いにも関わらず、成長はゆっくりで、永久歯が生えるのは6歳からです。人間には、お乳を吸わないのに大人と同じ固いものが食べられない、子ども期という時期が存在します。

ではなぜ人間は永久歯が生えないうちに離乳するのか。それは、人間の祖先が熱帯雨林から離れて暮らすようになったことに起因しているのです。熱帯雨林から草原へ出たことで、人間の子どもは危険な肉食獣にたくさん襲われたと考えられます。

その結果、多産であることが必要になった。人間は一産一子なので、子どもをたくさん産むには出産間隔を縮めるしかありません。次の出産準備のため、赤ちゃんの離乳を早めなければなりませんでした。

人間にとって最初の学び

ところで大人と同じ固いものが食べられないうちに離乳すると、フルーツなどやわらかい食べ物を大人から与えてもらわなければなりません。この食べ物を受けるという行為が、人間にとって最初の学びになります。自身を肯定する学びです。

どういうことかと言うと、食べ物を与えてもらうことで赤ちゃんは、「この世界に自分が受けいれられている」という感覚を抱くのです。とくに親以外の他者から与えてもらうことで、その確信は深まります。

自分の存在を肯定する機会は、もうすこし成長した段階でもやってきます。「思春期スパート」という、これも人間だけに見られる成長過程です。ゴリラと人間の赤ちゃんの脳の比較から説明します。

ゴリラの赤ちゃんは4年間で脳の大きさが2倍になります。一方、人間の赤ちゃんはたった1年で2倍に。そして5歳になると大人の脳の90パーセントの大きさに達します。その後12歳から16歳のあいだに完成する。すると、それまで脳に優先的に供給されていたエネルギーが今度は身体のほうへ回り、この時期、身体が急速に発達します。これが思春期スパートです。

急激な身体の変化をもたらす思春期スパートは、心身のバランスを崩す時期と言えます。男女ともに性的な変化を体験し、自分の身に起きる現象にとまどい、大人になりゆく体と子どもの心とのあいだで揺れます。

しかし同時に彼らは変わりゆく自分を見つめてさまざまな同性や異性と付き合っていくことを学んでいきます。これが第2の学びのときです。10代中盤から後半は他者との関わりを通して、自分がどのようにこの世界に受けいれられているかを実感する時期なのです。

ここにいる中高生のみなさんがまさにその時期です。みなさんは今のうちに人との交流を通して、世界に受けいれられて生きている自分の姿を感じてください。そしてこのあと20代になったとき、10代で得た自信を糧により広い社会で生きていく力をつけてください。

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