ゴリラ研究から学んだ人間の本質は「共感力」 元京大総長・山極氏が語る「人間らしい学び」

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会場からの質疑応答

──現代の教育についてどう思われますか?

知識偏重になっていると思います。今は子ども1人にパソコン1台が整備される「GIGAスクール構想」のもと知識の習得がスムーズになっていますが、今日の話にあったように、学びというのは1人でただ知識を詰め込めばいいというものではありません。

自分で学んだことは自分だけで納得せず、他者と共有して多様な観点で議論することが大事です。仲間と語り合いながら、自分の疑問に答えを見つけていくのが本当の学びだと思います。

不登校について

──不登校中は学びがストップするのではないかという懸念の声がありますが、どうお考えですか?

まず前提として、学校へ行きたくない気持ちは尊重するといいと思います。そのうえで学びは、本人が学びたくなったときにやればいいでしょう。私が行ったアフリカなどでは30歳から小学校へ通って勉強する人もいました。本当に学びたいことができたら、がつがつと知識を集めるものです。意欲がないのに尻をたたいても何も頭に入りません。

それから不登校になると学びが断たれるというのは、知識偏重社会にとらわれているからですよね。日本では上の段階へ行くのに試験で知識を競わなければならないから。でも学びの本質はそこじゃない。私が申し上げてきたような学びを実践する場は学校以外にいくらでもあるはずです。

ただ、学校という集団を離れるなら、何か別の集団に参加するといいと思います。集団に入ることは、自分がどんな人間であるかを見つめられるという利点があります。人間は自分で自分を定義することができませんが、集団のなかにいると集団が求める自分を感じ取ることができ、「私はこういう人間なんだ」と定義できるのです。人間は動物とちがって集団を渡り歩く能力があるので、いろんな集団に入ってみるといいでしょう。

集団によって求められることはちがうでしょうから、複数の自分を発見すると思います。そのいくつかの自分を場によって使い分けることで、人間は社会を生き抜いているのだと思います。

──本当にやりたいことがあるのに、壁にぶつかって押しつぶされそうになったとき、どうしたらいいですか?

その壁が1人では乗り越えられないのなら、どういう仲間が必要で、協力してもらうために何をすればいいのか考えることです。私の場合、アフリカでゴリラの観察をしようとしたとき、自分1人では森へ踏み出せませんでした。森の怖さをわかっていなかったからです。森に慣れ、あらゆる危険を察知し私を守ってくれるパートナーが必要でした。そうした相手を得るためにはまず相手のために自分が動く必要があります。その人の村で困っていることがあれば私も対策を考えて、力を尽くす。

私のために命を張ってくれる仲間を得るためには、それぐらいの回り道は必要でした。1つひとつ積み重ねて、自分がやりたいことをやれる状況に持っていくことが大事です。でも欲張りになってはいけない。成功を独り占めせず、自分がしたことに過度の見返りを求めないことも必要ですね。そうすれば、相手も信頼できるパートナーとして認めてくれるでしょう。(編集・本間友美)

【プロフィール】山極壽一(やまぎわ・じゅいち)
1952年、東京生まれ。霊長類学者、ゴリラ研究の第一人者。京都大学理学研究科教授を経て京都大学総長に就任。2020年に退任し、現在は京都大学名誉教授、総合地球環境学研究所所長。著書に『サル化する人間社会』(2014年)などがある。
不登校新聞

日本で唯一の不登校専門紙です。不登校新聞の特徴は、不登校・ひきこもり本人の声が充実していることです。これまで1000人以上の、不登校・ひきこもりの当事者・経験者が登場しました。

また、不登校、いじめ、ひきこもりに関するニュース、学校外の居場所情報、相談先となる親の会情報、識者・文化人のインタビューなども掲載されています。紙面はすべて「親はどう支えればいいの?」という疑問点から出発していると言えます。

公式HP 

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