台湾流・半導体人材育成術「半導体学部」のすごみ 明新科技大学、日本が学ぶべき産官学連携
呂教授は、半導体学部の特徴を4つにまとめる。①半導体試験のラインを持っていること、②台湾初の半導体学部であること、③台湾の「半導体検測工程鑑定士」の試験会場になっていること、④組み立てや試験・検査分野での特別なエリートを企業とともに育成している唯一の大学、ということ。「3つのナンバーワンと1つのオンリーワン」(呂教授)として胸を張る。
①は前述したように、実際の工場で使われている機械を用意していること。実際の生産ラインを大学で経験でき、卒業後に企業での業務・作業との違和感をなくすようにしてある。
②は、半導体学部と「半導体」とストレートに銘打ったことだ。日本では「半導体学部」と称したほうが通りがいいので「学部」として紹介しているが、実際には「半導体学院」であり「スクール」として本格的に半導体に特化した台湾初の学部であることにこだわった。
「半導体学院」の中には電機、電子、応用材料、半導体・光電の4つの学部と1つの博士課程がある。とくに「応用材料」は、世界最大手の半導体製造装置メーカーであるアプライド・マテリアルズの社名をそのまま翻訳して名付けた。これも、「実際の産業のイメージをそのまま学生に持ってもらうための工夫」(呂教授)。
企業が入学者選抜に関与、就職も保障
③の「半導体検測工程鑑定士」とは、後工程にかかわるエンジニアの資格だ。試験を明新科技大学で行い、台湾政府と関連企業の団体が評価・認定する。ある半導体企業では、この試験を受験したエンジニアが合格すれば、月額3000台湾ドル(約1万4000円)増額するという。
④は、明新科技大学では「2+2N半導体検測精英専班」といい、4年前から年間20人を定員に学生を募集した専門課程だ。ユニークなのは、この課程には半導体企業2社がかかわり、学生選抜には2社も面接を行うということ。合格すれば、大学で学びながら両社で働く。当然、給料も支給される。
呂教授は「後工程の特別なエリート養成課程。入学して即戦力を目指すもの」と説明する。この課程を卒業した学生は全員、両社のどちらかに入社してまさしく即戦力として期待されている。
半導体学部において呂教授が強調するのは、学生の技術習得はもちろん、学生の就職先の確保にとても注力しているということだ。具体的には「年収500万円を稼げる人材を出す」ということ。台湾の大卒初任給は月額約13万~14万円が現状であり、20歳代で年収500万円は破格の高給となる。
そのため、明新科技大学はそんな破格の高給をもらえるに十分な、半導体企業が求める技術力の水準に応えられるようなカリキュラムを用意し学生を教育しているということだ。
半導体学部に実際に入学してくる学生はどのような人物か。呂教授によれば、入学者の7割が工業高校などの実業系の生徒。手を動かすことが好き、ものづくりが好きといった生徒が多いという。
ある台湾の半導体企業は2022年、明新科技大学に対して「半導体の人材800人がほしい」と要請してきたことがあったと、呂教授は打ち明ける。だが、半導体は市場の需給関係の浮き沈みが激しく、いつでもこのような求人があるとは限らない。ただ、いつでも企業の需要に応えられるようにここでは学生を育成していると、呂教授は自信を見せる。
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