世界の女性監督たちが紡ぐ「女性たちへのエール」 完成まで6年、日本から杏・呉美保監督も参加

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だがそれでも諦めなかったのは、この映画が持つメッセージに意義を感じていたからだ。

それゆえに「本作は単なる映画ではない」という思いがあるそうで、「映画とメディアの力と、女性たちの表現をいかに変えていくかを十分に認識した男性と女性たちによる美しいムーブメントなのです。私たちはこれからも地球上のさまざまな地域の女性たちによる女性たちの物語を紡いでいくつもりです」と決意を語っている。

そんな本作には、共同制作として日本のWOWOWが参加。日本のエピソードとなる『私の一週間』の製作・企画・プロデュースを担当している。

だがもともとこの作品は日本以外の6つの短編で構成された作品として企画されていたもので、WOWOWに対しては「この作品の劇場配給権を含む日本国内における全権利(日本での劇場上映、放送、配信など)を購入しないか」と打診したところから接点が生まれることとなった。

日本側は急遽オファーを受けた

もともとは完成した映画の劇場配給権を買わないか、という先方のアプローチだったが、それに対して、WOWOWの鷲尾賀代プロデューサーが「先進国の中でジェンダーギャップが最下位である日本の作品がここに含まれていないのはおかしい」と返したことにより、事態は急展開。

WDITサイドからの「一緒にやらないか?」というオファーを受け、急きょWOWOWも制作に加わることに。急きょ決まった案件だったため、非常にタイトなスケジュールではあったが、プロジェクトの趣旨に賛同した呉美保監督と杏の参加も決定し、完成に至った、というのがその経緯である。

そうやって完成した日本のエピソードは、“仕事も子育てもすべてひとりで抱えこんで頑張りすぎてしまいがちなお母さん”へのまなざしが非常に温かい珠玉の一編となった。

杏
『私の一週間』のメガホンをとったのは『そこのみにて光輝く』が国内外で高い評価を受けた呉美保監督。前作『きみはいい子』以来 8 年ぶりの新作となる。 (『私たちの声』(©WOWOW)

海外の上映でも「一番好きなエピソード」「泣けた」といった感想を寄せられたという。プロデューサーのティレシも「母性がイタリアと日本ではほんの少し違って見えることを知り、とても興味深かった。 感情表現の仕方も違うし、とてもいい勉強になった」と振り返る。

なお、本作の主題歌「Applause」はアカデミー賞歌曲賞(Best original song)部門にノミネート。作詞・作曲を担当したのは、セリーヌ・ディオンやエアロスミス、レディー・ガガなど数多くのアーティストに楽曲を提供してきたヒットメーカーのダイアン・ウォーレン。

歌唱を担当するのは、歌手、女優として活躍するソフィア・カーソン。困難に立ち向かう女性たちに、文字通り拍手(Applause)を送るような力強い楽曲となっている。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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