エネルギー政策をめぐりドイツで続く激しい攻防 現地ジャーナリストレポート

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 ドイツの科学界においては、日本での原発事故を受けて原子力の使用についての懸念が高まっており、ドイツ連邦政府の専門家諮問委員会「地球環境変動」が、4月7日に発表された最新の報告書の中で日本の原発事故を取り上げた。同委員会は本来、2年前から、1986年のチェルノブイリ原子力発電所の事故の長期的な影響を評価することを任務としていた。

同委員会のハンス・ヨアヒム・シェレンフーバー委員長は、「原子力を使用せず、また化石エネルギー資源を使用し続けることもないエネルギーシステムへの完全な移行を、いかにして2050年までにグローバルなスケールで実現するか。私どもはその具体的なシナリオを準備している。エネルギーはもう少し効率的に使わなければならない」と語っている。

報告書は、30年において、先進国の生活水準を保ったままで、その時に地球上に住む90億人に対してエネルギーを供給することは可能だ、と明白に述べている。

ドイツ放射線防護協会が発表した「日本での原発事故が引き起こした被害はチェルノブイリでの原発事故の影響を上回る可能性がある」との所見に一般の人々はショックを受けた。

物理学者でもあるこの学会の会長、セバスチャン・プフルークバイル氏は、4月6日にベルリンで開催された国際チェルノブイリ会議において、「福島第一原発から流出した放射線の量は、チェルノブイリ原発の爆発で放出された量をすでに何倍も上回っている」との見解を示した。

チェルノブイリでは原発が爆発し、放射線が噴出したのとは対照的に、福島第一原発では、放射性物質が徐々に流出し、半径300~500キロの地域に少しずつ拡散することになる。福島第一原発の周辺地域の人口密度はウクライナのチェルノブイリのそれよりもずっと高いという事実を考慮すると、被害もまた「数倍」上回ることになる。

日本や米国においては、東京電力および原子力安全・保安院(NISA)は原発事故に対処するに当たり、単に未熟であったというだけではなく、重大な誤りを犯して深刻な結果を招いた、という見方がなされているが、ドイツの原子力および原子力安全性問題の専門家たちの間でもその見方を否定する人はいない。

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