エネルギー政策をめぐりドイツで続く激しい攻防 現地ジャーナリストレポート
福島第一原子力発電所の事故を受け、ドイツでは州選挙で原発反対派の緑の党が躍進するなど反原発の世論が活発化している。経済界の動きはどうなのか。現地の
状況をドイツの経済ジャーナリストのアンドレアス・ガンドウ氏がレポートする。
地震・津波・原子力発電所の事故という三重の大惨事が、ドイツに社会的・政治的な大変動をもたらしている。テレビが映し出す被災地域や被災者の窮状、とりわけ煙を噴き上げる福島第一原発の現状を目の当たりにして、ドイツ人の感情は大きく揺り動かされた。それはただちにドイツ全土で25万人が参加するデモへと発展し、デモには若い家族が多数参加した。地方選挙の結果にも影響を与え、経済的、技術的、社会的にもその影響は広範囲にわたる。
■ドイツ政権に衝撃与えた福島の事故
物理学の博士号を持つアンゲラ・メルケル独首相は、大企業を基盤とする与党キリスト教民主同盟(CDU)の中でも多数派に属し、原子力を、「つなぎの技術」として、最近まで強く支持してきた。ところが「状況は変わってしまった。新たに学んだこともある」と語るようになった。
かつて政権の座にあった社会民主党(SPD)と緑の党の連立政権は、2022年までに原子力への依存をやめるという決定を下していたが、10年10月、現在のメリケル首相の連立政権は、連邦議会の承認を得て前政権の決定を覆し、ドイツにある17の原子力発電所の使用期限を、平均で12年間、最長で36年まで延長することにした。それからまだ5カ月しか経っていない。
ちなみにこれら17の原子力発電所は、10年においてドイツの電力供給の約4分の1を賄っている。異論が多いにもかかわらず、現政権が前政権の決定を覆した背景には、4大電力会社の強力なロビー活動があった。4社の市場占有率は80%にのぼる。
与党連立政権が10年夏に決定を下す前においてさえ、国民の約半分は現存する原子力発電所の使用期限延長に反対していた。日本での大惨事を受け、世論調査では与党の支持率が大幅に下落した。16州のうちの2州で、地方選挙が3月末に迫っていることを考慮して、メルケル首相は突然、それまでの政策を転換する決定を下した。
まず3月14日、使用期限延長の一時的停止を決定。すなわち「ストレステスト」と呼ぶ安全対策の点検を3カ月間にわたって実施する「モラトリアム」が決まった。
3月15日。1980年以前に建設された最も古い7つの原子力発電所の合計8基の原子炉を、少なくとも3カ月間の予定で運転停止。この運転停止は、原子力発電所のある州政府首相が、メルケル首相との協議を踏まえたうえで命令した。