VR技術は「ニュース消費」をどう変えるのか 米国で注目される没頭型ジャーナリズム

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レイモンド氏は、コンテンツ開発者側とユーザー側それぞれの課題と問題点を語ってくれた。

開発者の課題は、VRによって360度見られるようになった時、ユーザーにどこか特定の一点を見せながら語ることが難しくなるということ。ユーザーが見ているものとナレーションがずれてしまうと、没頭させられない。ただし、こうした手法については一度やり方を理解すれば容易に対応できる。問題はコンテンツを開発し、やり方に馴染むまでの費用。これは非常に高額で、ほとんどのメディア企業にとって難しい。

冒頭で説明した「プロジェクト・シリア」も、メディア企業を支援している米国のナイト財団の助けを得て制作されている。ただでさえ衰退傾向にあるメディア企業が独自で巨額の投資に踏み切れるかは難題だ。最大手で資金的な余裕もまだあるニューヨークタイムズの挑戦はそういう意味で積極的に映る。例えば日本の大手新聞社も、収入源に苦しみながらも手元の現金及び現金同等物は数百億円以上も所有している。この内から思い切った投資を出来るところが出れば面白いかもしれない。

PTSDなどの懸念も

ただ、ユーザーにとっては、乗り物酔いのような感覚を引き起こすかもしれない。あるいは、戦地のショッキングな映像を見せることによるPTSDなどの問題があるかもしれない。そうした問題は克服できるのだろうか。

酔いについては、大丈夫だ。(主要なVRのデバイスである)オキュラスとSteamVRを試してみたけれど、どっちもだいたい20分から30分つけていても一度も酔わなかったよ。PTSDは不安の種だ。誰も読者を怖がらせたいとは思わないだろう。しかしそれについては配慮しないといけない。

VRの軍事利用に関する実験で、被験者がPTSDを発症したケースもあるという。ただし、ISOJのシンポジウムでデモが行われた「プロジェクト・シリア」のような紛争関連のコンテンツがVRジャーナリズムのコンテンツの中心になるわけでもないという。

戦地の報道は、ジャーナリズムの手法としてトリッキーだからもてはやされがちだが、それ以外にも多くのジャンルに可能性がある。例えば、調理が複雑な料理の作り方を追体験するというのもいいだろう。動物関連のコンテンツもいいかもしれない。ユーザーをジャングルの奥地に連れて行くような体験を与えられると思う。

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