VR技術は「ニュース消費」をどう変えるのか 米国で注目される没頭型ジャーナリズム

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なぜ、今これからVRジャーナリズムなのか。そこには、その先には、どんなメディア体験が待っているのか。前述のISOJに登壇した、ガネット・メディアグループでVRコンテンツ開発を担当するレイモンド・ソートー氏に話を聞いた。

レイモンド・ソートー氏

この流れは偶然じゃない。ジャーナリズムはストーリーを語るのに適した手段だし、メディア業界はVR活用の可能性を探っていた。そして、この分野にテクノロジー企業が真剣に投資していることに気づいたんだと思う。

フェイスブックはオキュラスリフトを20億ドルで買収し、グーグルはVR用のデバイス『カードボード』を50万個以上売り、アプリは100万以上ダウンロードされた。今やVRは技術的に可能となり、読者をエンゲージさせる手段として有効。それを認めたのだと思う。

VRはストーリーに没頭させるツール

近年のジャーナリズム産業は、モバイルで簡単に消費できるより短くキャッチーな文章や刺激的な画像に読者の注意を奪われ、読者を長いストーリーに「没頭」させるのに苦心してきた。スマートフォンに適したビジュアルと長文の組み合わせである「スノーフォール」型と呼ばれるコンテンツをニューヨークタイムズが試み、日本でも朝日新聞がソチ五輪後に浅田真央の「ラストダンス」を公開。こうした新しい手法が模索されてきた経緯がある。

360度のスクリーンに文字通り「没頭」させられるVRは、長いストーリーに没頭させるための最適な手段ということだろうか。

そう、今こそコンテンツを開発する時だ。ソーシャルメディアの興隆も、VRジャーナリズムと関連があるかもしれない。

たとえばリアルタイムでニュースを体験し、自らも発信できるTwitterによってユーザーは自らを世界で起こっているニュースの一部であるかのように錯覚する。VRもまさにそういった感覚を、より深いレベルで引き起こすことになる。

VR体験についてこのように語るレイモンド氏は、これまで3Dのアートディレクターとしてキャリアを築いてきた。

昨年、(メディア企業である)ガネット社が僕にVRをやらないかと言ってきた時にはびっくりしたけれど、VRをニュースのプラットフォームとして確立するために様々な研究開発にチャレンジできるのはとてもエキサイティング。だからゲーム業界を離れてこっちにきた。もちろんゲームも好きだけど、VRによってストーリーを語るという面に惹かれた。

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